「私は4、5mの道幅でも、左右を見渡して車1台走ってなくても、どんなに寒い時でも信号が青に変わるのをきちんと待ちます。小さい子に注意する時に、嘘があってはならないから。でも、今は赤信号でも平気で渡る人が多い。前は追っかけていって注意しましたけど、今はもう諦めてしまって…そんな大人たちの中で育つ子供が本当にかわいそうでなりませんよ」
どちらも、思い当たる人にはなんとも耳の痛い話ではないか。しかし、周りの人も言わないし…とか、急いでいたから…など、いろいろ理由をつけてはなし崩し的に“良し”としてきたのではなかったか。ノッポさんは言う。
「周りがどうであろうが関係ないですよ。ぼくにとってはそうせずにはおれない当たり前の価値観なんです。まして急いでるとか忙しいとか、たかだか信号をひとつ無視したところで、何が変わるんでしょう」
そうした揺るがない自らの血肉となった価値観は、かつてどこの家庭や学校の中でも、何度も口を酸っぱくして教えられてきたことだった。
「私の親父もお袋も、世の中の決まり事をいちいち私に教えてくれました。言ったのは3つです。【1】人のものを盗んじゃいけない。【2】人を傷つけてはいけない。【3】人に迷惑をかけてはいけない。これ以外は何ひとつ、私に注意したことはありません。今は子供がレストランなどで騒いでいても注意しない親が増えてますが、子供であっても、他人が大勢いるところでは騒いではいけないんです。知り合いなら後でお返しもできるけど、行きずりの他人だと迷惑のかけっぱなしになるから」(ノッポさん)
ノッポさんだけが特別なのではない。先生や親の言うことは絶対だった。それは時に鉄拳やお仕置きを伴うことも決して珍しくはなかった。それでも子供は、親や先生のことを尊敬し、言うことに従ったのだ。
ノッポさん世代の人たちが、教師が生徒に気をつかい、父親が子供を喜ばせようと必死になる今の時代に、違和感を覚えるのも当然かもしれない。
※女性セブン2016年10月20日号