SNSで「いいね」をもらうためには、平均的な価値観や感覚が欠かせない。多くの人に共感されにくい個性的な意見はスルーされる。そのため、どんどん思考が平凡で薄っぺらなものになり、独自の感性がすり減っていく。一見のびのびと「個」を発信しているように見えるSNSだが、実は「集団」に参加し、空気を読むことを強要されているのだ。
それら数々の危険に加え、貴重な時間を大量に奪われていることも自覚するべきだろう。
電車の中だけに限らず、少しでも時間が空くとスマホを取り出す。毎日何回もSNSで知人の動向をチェックしないと落ち着かない。次々と押し寄せる情報で神経は常にピリピリ。本を読んだり、美しい景色を眺めたり、ぼんやり考え事をする時間など、とても取れない。
とはいえ今の時代、スマホを捨てて完全にネットから離れて暮らすのも難しい。そこで著者が提案するのが、短期間だけ食事をとらない断食のように、週末の3日間だけスマホに触れずに生活する「スマホ断食」だ。著者によると、本当の断食や禁煙よりずっとラクだし、その後ネットへのアクセスもコントロールできるようになったという。
芥川賞作家である著者は還暦を迎えた年代だが、決して時代遅れのデジタル音痴というわけではない。かつて原稿はネット上のストレージ(保管庫)に保存していたというし、ホームページも持っている。人並み以上にネットを利用してきた人の言葉なので説得力がある。
スマホは確かに便利だし、現代社会に欠かせないツールだが、なければ生きていけないはずもない。手軽に情報を得られる一方、弊害も想像以上に多い。スマホとの適切な距離感を学び、本来の自分を取り戻すためにも「スマホ断食」を試してみる価値はあるだろう。
※女性セブン2016年10月20日