◆詩は人と人を繋ぐこともできる

 駅のジューススタンドで接客のバイトを始めた時の、小さな違和感。中学~高校時代、〈スクールカースト〉の底辺から見た〈居場所〉を巡る闘いや、自らも翻弄された〈かわいい〉に関する考察。また人はなぜ〈自撮り〉にハマり、殻にこもりがちな自分がなぜ路上で詩を朗読したりアイドルオーディションに出たりしたのか。ことに彼女の関心は自分を彫刻する他者や外界との関係性に向けられる。

「確かにスマホやSNSがフツウにある時代に育った私たちは、人からどう思われるか、過剰に意識する傾向はあるかもしれない。でも今さらSNSがなくなるわけではないし、苛めも差別もある前提で折り合いをつける以外に、実質生きていく術はない。その方法の一つが私の場合は詩を書くことでした。

 私がプロットを作ると話すと驚く方がいるんですが、牛丼屋さんにだってレシピはあるでしょう(笑い)。プロとしてはその場の感性や閃きに頼らずに、いつ何時もおいしい牛丼、ならぬ、詩を提供する準備はしていたいなって」

 実は人付き合いや恋愛にも臆病で、誰かと喫茶店へ行っても相手を慮り過ぎて「そろそろ帰ろう」と言い出せない彼女は、子供の頃、朝顔も満足に咲かせられなかった不器用な自分をずっとトラウマに感じてきたという。しかし今は違う。

〈相手が何を思い、何を感じているか、本当のところは永遠にわからない。でも自分がどう感じたか、それはよく知っている。喫茶店で相手に『出ますか』と告げられたら、次は率直にあの言葉を返そう〉〈ありがとう。とても楽しかったよ〉

「異性は今でも苦手ですし、そのくせオーディションや路上に出る私は、キャラが一貫してないとよくいわれる(笑い)。でもどの私も私というか、周囲が期待する役割を演じてお茶を濁したかと思うと、意外な自分に驚いたり、人間は誰しもそんなものなのかなって。
 そういうことに一つ一つ、気づく過程を、どんなにイタくて滑稽でも、できるだけ誠実に綴りたいんです」

〈与えることを恐れなければ、きっと花は咲く〉と、自身の内や外にこわごわと手を伸ばし、「詩は人と人を繋ぐこともできる」と語る彼女は、〈詩人のくせに前向き〉だ。そして「詩は現象」とかつて看破したように、彼女はこれからも詩という生身の現象を生き、本書はその、ほんの途中に過ぎない。

【プロフィール】ふづき・ゆみ/1991年札幌市生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。2008年に現代詩手帖賞を受賞しデビュー。2009年、第一詩集『適切な世界の適切ならざる私』を発表し、中原中也賞と丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞。2013年にはNHK全国学校音楽コンクール課題曲「ここにいる」を作詞、アイドルオーディション「ミスiD2014」では柚月麻子賞を獲得し、イベントやラジオ等で活躍。詩集『屋根よりも深々と』の他、『わたしたちの猫』が近々刊行予定。159cm、O型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/内海裕之

※週刊ポスト2016年11月4日号

関連記事

トピックス

上原多香子の近影が友人らのSNSで投稿されていた(写真は本人のSNSより)
《茶髪で缶ビールを片手に》42歳となった上原多香子、沖縄移住から3年“活動休止状態”の現在「事務所のHPから個人のプロフィールは消えて…」
NEWSポストセブン
ラオス語を学習される愛子さま(2025年11月10日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまご愛用の「レトロ可愛い」文房具が爆売れ》お誕生日で“やわらかピンク”ペンをお持ちに…「売り切れで買えない!」にメーカーが回答「出荷数は通常月の約10倍」
NEWSポストセブン
王子から被害を受けたジュフリー氏、若き日のアンドルー王子(時事通信フォト)
《10代少女らが被害に遭った“悪魔の館”写真公開》トランプ政権を悩ませる「エプスタイン事件」という亡霊と“黒い手帳”
NEWSポストセブン
「性的欲求を抑えられなかった」などと供述している団体職員・林信彦容疑者(53)
《保育園で女児に性的暴行疑い》〈(園児から)電話番号付きのチョコレートをもらった〉林信彦容疑者(53)が過去にしていた”ある発言”
NEWSポストセブン
『見えない死神』を上梓した東えりかさん(撮影:野崎慧嗣)
〈あなたの夫は、余命数週間〉原発不明がんで夫を亡くした書評家・東えりかさんが直面した「原因がわからない病」との闘い
NEWSポストセブン
テレ朝本社(共同通信社)
《テレビ朝日本社から転落》規制線とブルーシートで覆われた現場…テレ朝社員は「屋上には天気予報コーナーのスタッフらがいた時間帯だった」
NEWSポストセブン
62歳の誕生日を迎えられた皇后雅子さま(2025年12月3日、写真/宮内庁提供)
《愛子さまのラオスご訪問に「感謝いたします」》皇后雅子さま、62歳に ”お気に入りカラー”ライトブルーのセットアップで天皇陛下とリンクコーデ
NEWSポストセブン
竹内結子さんと中村獅童
《竹内結子さんとの愛息が20歳に…》再婚の中村獅童が家族揃ってテレビに出演、明かしていた揺れる胸中 “子どもたちにゆくゆくは説明したい”との思い
NEWSポストセブン
日本初の女性総理である高市早苗首相(AFP=時事)
《初出馬では“ミニスカ禁止”》高市早苗首相、「女を武器にしている」「体を売っても選挙に出たいか」批判を受けてもこだわった“自分流の華やかファッション”
NEWSポストセブン
「一般企業のスカウトマン」もトライアウトを受ける選手たちに熱視線
《ソニー生命、プルデンシャル生命も》プロ野球トライアウト会場に駆けつけた「一般企業のスカウトマン」 “戦力外選手”に声をかける理由
週刊ポスト
前橋市議会で退職が認められ、報道陣の取材に応じる小川晶市長(時事通信フォト)
《前橋・ラブホ通い詰め問題》「これは小川晶前市長の遺言」市幹部男性X氏が停職6か月で依願退職へ、市長選へ向け自民に危機感「いまも想像以上に小川さん支持が強い」
NEWSポストセブン
割れた窓ガラス
「『ドン!』といきなり大きく速い揺れ」「3.11より怖かった」青森震度6強でドンキは休業・ツリー散乱・バリバリに割れたガラス…取材班が見た「現地のリアル」【青森県東方沖地震】
NEWSポストセブン