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2016.10.26 16:00  週刊ポスト

【著者に訊け】文月悠光氏 初エッセイ『洗礼ダイアリー』

◆詩は人と人を繋ぐこともできる

 駅のジューススタンドで接客のバイトを始めた時の、小さな違和感。中学~高校時代、〈スクールカースト〉の底辺から見た〈居場所〉を巡る闘いや、自らも翻弄された〈かわいい〉に関する考察。また人はなぜ〈自撮り〉にハマり、殻にこもりがちな自分がなぜ路上で詩を朗読したりアイドルオーディションに出たりしたのか。ことに彼女の関心は自分を彫刻する他者や外界との関係性に向けられる。

「確かにスマホやSNSがフツウにある時代に育った私たちは、人からどう思われるか、過剰に意識する傾向はあるかもしれない。でも今さらSNSがなくなるわけではないし、苛めも差別もある前提で折り合いをつける以外に、実質生きていく術はない。その方法の一つが私の場合は詩を書くことでした。

 私がプロットを作ると話すと驚く方がいるんですが、牛丼屋さんにだってレシピはあるでしょう(笑い)。プロとしてはその場の感性や閃きに頼らずに、いつ何時もおいしい牛丼、ならぬ、詩を提供する準備はしていたいなって」

 実は人付き合いや恋愛にも臆病で、誰かと喫茶店へ行っても相手を慮り過ぎて「そろそろ帰ろう」と言い出せない彼女は、子供の頃、朝顔も満足に咲かせられなかった不器用な自分をずっとトラウマに感じてきたという。しかし今は違う。

〈相手が何を思い、何を感じているか、本当のところは永遠にわからない。でも自分がどう感じたか、それはよく知っている。喫茶店で相手に『出ますか』と告げられたら、次は率直にあの言葉を返そう〉〈ありがとう。とても楽しかったよ〉

「異性は今でも苦手ですし、そのくせオーディションや路上に出る私は、キャラが一貫してないとよくいわれる(笑い)。でもどの私も私というか、周囲が期待する役割を演じてお茶を濁したかと思うと、意外な自分に驚いたり、人間は誰しもそんなものなのかなって。
 そういうことに一つ一つ、気づく過程を、どんなにイタくて滑稽でも、できるだけ誠実に綴りたいんです」

〈与えることを恐れなければ、きっと花は咲く〉と、自身の内や外にこわごわと手を伸ばし、「詩は人と人を繋ぐこともできる」と語る彼女は、〈詩人のくせに前向き〉だ。そして「詩は現象」とかつて看破したように、彼女はこれからも詩という生身の現象を生き、本書はその、ほんの途中に過ぎない。

【プロフィール】ふづき・ゆみ/1991年札幌市生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。2008年に現代詩手帖賞を受賞しデビュー。2009年、第一詩集『適切な世界の適切ならざる私』を発表し、中原中也賞と丸山豊記念現代詩賞を最年少受賞。2013年にはNHK全国学校音楽コンクール課題曲「ここにいる」を作詞、アイドルオーディション「ミスiD2014」では柚月麻子賞を獲得し、イベントやラジオ等で活躍。詩集『屋根よりも深々と』の他、『わたしたちの猫』が近々刊行予定。159cm、O型。

■構成/橋本紀子 ■撮影/内海裕之

※週刊ポスト2016年11月4日号

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