国内

『八重子のハミング』主演・升毅 自分に投影できずひるんだ

映画『八重子のハミング』初日舞台挨拶で

 夫婦の純愛と家族の愛情を描いた映画『八重子のハミング』が公開され話題になっている。この映画の原作は、5度のがん手術から生還した陽信孝さん(77才)が、若年性アルツハイマーの妻・八重子さん(享年65)を介護する日々を短歌とともに綴った同名手記(2002年、小学館刊)。14年もの月日を経て、多くの人の胸を揺さぶっている。

“31文字のラブレター”約80首を詠み、綴った、4000日あまりに及んだ介護の軌跡『八重子のハミング』(小学館文庫)。2002年末に他界した愛妻を偲んだ終章も新たに収録されている。

 陽さんと八重子さんの物語を映画化した佐々部清監督(58才)は、舞台挨拶後に行われたサイン会での出来事をうれしそうに明かした。

「20代の若い女性がぼくのところに来て、ずっと泣かれていたんですね。“よかった?”って聞いたら、“すんごく、よかった。涙が止まらない”っておっしゃっていたんですが、ちゃんと若い人にもこの映画は伝わるんだと思いました。

 映画の中で、陽さんの友人が語る“お前は八重子さんの人としての尊厳を守ったんじゃ”というせりふがあるんですけどね、12年間、人間の尊厳を守り続けるって大変ですよ。正直、今、うちのかみさんがアルツハイマーになったら、ぼくは3か月でへばると思います。でも陽さんは、やり遂げた。素晴らしいことだと思います」

 八重子さんを演じた高橋洋子(63才)は「記憶を失っていく彼女の心情は最後までわからなかった」と言うものの、それでも、夫婦の確かな絆を強く感じたと話す。

「原作を読んだり、映画を見る限り、八重子さんは娘も孫も忘れてしまうのに、ご主人にはいつも甘えていたいと思っていたのかなって思うんです。だから、もしかしたら最期まですごく幸せだったんじゃないかなって」

 一方映画で陽さんを演じた主演の升毅(60才)は、俳優としてデビューし40年となるが、こんなに役作りに苦戦したのは初めての経験だったと言う。

「原作を読んだ時、途中で幾度も幾度も涙があふれて、そこで本を閉じるんですね。その先が進めなくなるんですよ。時間をおいたり、翌日とかに続きを読むんですけど、また涙があふれて、本を閉じて。そういうことを繰り返していました。これはいったい何だろうなと思いながら読み終えました。

 そしてこの役を演じるのは、ちょっと無理だって思ったんです。その前に脚本を読んだ段階では、“なかなか覚悟がいるぞ”と前向きな思いだったんですが、原作を読んだときにはすごく客観的に読んでしまって、自分に投影できず、正直ひるみました」

 そんな升にとって、「人間、怒りには限界があっても、優しさには限界がない」というせりふが強く心に残っている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

東日本大震災発生時、ブルーインパルスは松島基地を離れていた(時事通信フォト)
《津波警報で避難は?》3.11で難を逃れた「ブルーインパルス」現在の居場所は…本日の飛行訓練はキャンセル
NEWSポストセブン
別府港が津波に見舞われる中、尾畠さんは待機中だ
「要請あれば、すぐ行く」別府湾で清掃活動を続ける“スーパーボランティア”尾畠春夫さん(85)に直撃 《日本列島に津波警報が発令》
NEWSポストセブン
宮城県気仙沼市では注意報が警報に変わり、津波予想も1メートルから3メートルに
「街中にサイレンが鳴り響き…」宮城・気仙沼市に旅行中の男性が語る“緊迫の朝” 「一時はネットもつながらず焦った」《日本全国で津波警報》
NEWSポストセブン
津波警報が発令され、ハワイでは大渋滞が発生(AFP=時事)
ハワイに“破壊的な津波のおそれ” スーパーからは水も食料品も消え…「クラクションが鳴り止まない。カオスです」旅行者が明かす現地の混乱ぶり《カムチャツカ半島地震の影響》
NEWSポストセブン
モンゴルを公式訪問された天皇皇后両陛下(2025年7月16日、撮影/横田紋子)
《モンゴルご訪問で魅了》皇后雅子さま、「民族衣装風のジャケット」や「”桜色”のセットアップ」など装いに見る“細やかなお気遣い”
夜の街での男女トラブルは社会問題でもある(写真はイメージ/Getty)
「整形費用返済のために…」現役アイドルがメンズエステ店で働くことになったきっかけ、“ストーカー化した”客から逃れるために契約した「格安スマホ」
NEWSポストセブン
牛田茉友氏はNHKの元アナウンサーだったこともあり、街頭演説を追っかける熱烈なファンもいた(写真撮影:小川裕夫)
参院選に見るタレント候補の選挙戦の変化 ラサール石井氏は亀有駅近くで街頭演説を行うも『こち亀』の話題を封印したワケ
NEWSポストセブン
大谷家の別荘が問題に直面している(写真/AFLO)
大谷翔平も購入したハワイ豪華リゾートビジネスが問題に直面 14区画中8区画が売れ残り、建設予定地はまるで荒野のような状態 トランプ大統領の影響も
女性セブン
技能実習生のダム・ズイ・カン容疑者と亡くなった椋本舞子さん(共同通信/景徳鎮陶瓷大学ホームページより)
《佐賀・強盗殺人》ベトナム人の男が「オカネ出せ。財布ミセロ」自宅に押し入りナイフで切りつけ…日本語講師・椋本舞子さんを襲った“強い殺意” 生前は「英語も中国語も堪能」「海外の友達がいっぱい」
NEWSポストセブン
大日向開拓地のキャベツ畑を訪問された上皇ご夫妻(2024年8月、長野県軽井沢町)
美智子さま、葛藤の戦後80年の夏 上皇さまの体調不安で軽井沢でのご静養は微妙な状況に 大戦の記憶を刻んだ土地への祈りの旅も叶わぬ可能性も
女性セブン
休場が続く横綱・豊昇龍
「3場所で金星8個配給…」それでも横綱・豊昇龍に相撲協会が引退勧告できない複雑な事情 やくみつる氏は「“大豊時代”は、ちょっとイメージしづらい」
週刊ポスト
NYの高層ビルで銃撃事件が発生した(右・時事通信フォト)
《5人死亡のNYビル乱射》小室圭さん勤務先からわずか0.6マイル…タムラ容疑者が大型ライフルを手にビルに侵入「日系駐在員も多く勤務するエリア」
NEWSポストセブン