ベストセラー『京都ぎらい』で浮き彫りとなった「京都人への苦手意識」。しかし、より潜在数は多い(!?)との説もあるのが「名古屋ぎらい」だ。
『週刊ポスト』(2016年8月19・26日号)で特集したのを皮切りに、大きな議論を呼んでいるが、はたして名古屋人のどのような行動が嫌われるのか、名古屋人の反論も併せて紹介する。(2016年11月19日更新)
名古屋が嫌われる経緯
「名古屋ブーイング」のルーツは、「タモリ」?
この「名古屋ブーイング」のルーツは、「タモリ」にある。
1980年代にタモリがテレビやラジオを通じ、「東京と大阪に挟まれて独特のコンプレックスがある」「エビフライをエビフリャーと呼んで好んで食べる」「名古屋弁はみゃーみゃーと響きが汚い」などと揶揄したことから、負のイメージが定着したと言われている。
マツコの番組でブーイングが再燃
最近、マツコ・デラックスが司会の人気バラエティ番組『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)で「名古屋人よそ者には厳しい問題」など数々の「名古屋問題」が取り上げられたことで、ブーイングが再燃した。
よく指摘されるのが、今ベストセラーになっている『京都ぎらい』と同じく、“よそ者”を過度に嫌う風潮だ。
「訪問したい都市」でダントツの最下位
名古屋市は2016年6月に東京23区と札幌、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の全国8大都市の住民を対象にネットを介した「都市ブランド・イメージ調査」を実施した。その結果が悲惨だった。
「訪問したい都市」で名古屋市はトップの京都に大差をつけられての最下位。「最も魅力に欠ける都市」でも2位の大阪市を引き離してトップと悲しすぎる結果に終わった。
名古屋の特殊性(食べ物編)
手羽先の食べ方がなっていないと怒る
「名古屋の友人と食事に行った時、手羽先の食べ方がなっていないと怒られた。子供の頃、酔ったお父さんがお土産で買って帰る手羽先が大好きで、食べる順序や骨の外し方を英才教育されたとか。それだけに手羽先の食べ方にはこだわりがあるそうです」(神奈川県の男性)
豚汁も「赤味噌」しか認めない
味噌汁と言えば赤だし。定食屋もチェーンもインスタントも赤だし。豚汁も「赤味噌」しか認めない。
ホームのきしめん屋に行くために「入場券専用」の券売機がある
新幹線ホームにある立ち食いきしめん店「住よし」が人気。「住よし」に行きたいがために、名古屋駅には全国のJRで唯一、「入場券専用」の券売機がある。
日本初のファストフードは「名古屋のケンタッキー」と自慢
日本初のファストフードは「名古屋のケンタッキーだ」と自慢してくる。しかし、わずか半年で撤退。
「台湾ラーメン」なのに名古屋名物
豚挽肉、ニラ、唐辛子の辛さが特徴の「台湾ラーメン」。「味仙」という店が発祥。台湾にはないという謎の食べ物だが、名古屋に行くと高確率で地元民に連れて行かれる。
冷やし中華には「マヨネーズ」をかける
名古屋人は冷やし中華にほぼマヨネーズをかける。小学校の給食でも小さなマヨチューブが添えられる。セブンーイレブンがマヨを付けずに冷やし中華を発売した時は大ブーイング。今は付いている。
エビフリャー ちゃっかり名古屋名物に
タモリが「エビフリャー」などと揶揄した当時、エビフライは名古屋名物でも何でもなく、「何いっとるんだが」と怒っていた。しかし現在、名古屋人は「負のイメージ」を逆に利用している。
「全国的に“名古屋はエビフリャー”というイメージが広がり、それに便乗して観光客相手に『名古屋名物・ジャンボエビフライ』を出す店が増えたんです。おかげで『エビフライは名古屋名物じゃない』と言い切れなくなってきた。名古屋の人は口では怒っていても、商売になるなら何でもやるんです(苦笑)」(『名古屋あるある』の共著者で、名古屋出身の川合登志和氏)
天むすもトンテキも鶏ちゃんも名古屋発祥ではない
「名古屋めし」として喧伝される天むすとトンテキは三重県、鶏ちゃんは岐阜のパクり。ボリューム満点のモーニングの文化も実は一宮や豊橋あたりが発祥。
【反論】「みんな、天むすの発祥が三重県だと知らない。広めてあげた」(作家・井沢元彦氏)
「みんな、天むすの発祥地が三重県だと知らないわけでしょ? 広めてあげたというと恩着せがましいけど、名古屋には“良いものならどんどん作って、それを広めていこう”という意識がある。名古屋人は『お値打ち』という言葉をよく使いますが、これも今でいう『リーズナブル』という言葉の先駆けですよ」(作家・井沢元彦氏)
【反論】「天むすが“広まった”発祥の地は名古屋でしょうが」(地元の人)
モーニングで有名な名古屋のチェーン店「コメダ珈琲」の常連だという50代男性も怒り心頭だ。「この記事の何が名古屋の人間を怒らせるか教えてやろうか。他県のものをパクっていると書いとるところだがや。何が三重県発祥よ。天むすが“広まった”発祥の地は名古屋でしょうが」
名古屋の特殊性(言葉編)
名古屋駅は「メーエキ」、名古屋大学は「メーダイ」
名古屋駅は「メーエキ」、名古屋大学は「メーダイ」、名古屋テレビは「メ~テレ」、名古屋城を「メージョー」、名古屋鉄道も「メーテツ」と呼ぶが、ナゴヤドームはなぜか「ナゴド」。
日本一・日本初という言葉が大好き
日本一・日本初という言葉が大好きで、日本初の民放「CBC」、日本一の100メートル道路、日本初のリニアモーターカー、名古屋駅にある日本一大きいマネキン人形「ナナちゃん」など、東京、大阪を越えるものは市民の誇り。
“市内”と言えば「名古屋」、それ以外は「近郊」
“市内”と言えば「名古屋」のこと、それ以外は「近郊」。中日新聞の名古屋市内用は「市内版」、尾張北部版だと「近郊版」と呼ぶ。
「アメ横」と言えば、上野ではなく大須
名古屋で「アメ横」といえば、大須の電気街にある「アメ横ビル」のこと。過去に東京・上野の「アメ横」と揉めたこともある。
じゃんけんのチョキを「ピー」と呼ぶ
じゃんけんのチョキを「ピー」と呼ぶ。ピースサインの「ピー」が由来と思われる。名古屋だけのローカルルール。
【反論】「チョキの方が異常」(名古屋市長・河村たかし氏)
独特の文化が「ダサい」と言われていることも、「これが当たり前」と意に介さない。「じゃんけんの“グー・ピー・パーも、これが標準的なもので、チョキの方が異常だと思うてます」(名古屋市長・河村たかし氏)
名古屋の特殊性(行動編)
結婚式の引き出物がデカくて、重い!
結婚式の引き出物がデカくて、重い! 特に重いのが食器。名古屋発祥のノリタケがマスト。
「SSK」が名古屋女性のステータス
「SSK」が名古屋女性のステータス。名古屋は出身大学より「出身高校」を気にする。S=愛知淑徳、S=椙山女学園、K=金城学院は3大お嬢様学校。金城学院では、中学からの生徒を純金、高校からは18金、大学からは金メッキと「ランク付け」。
高級ブティックは母娘ワンセットが常識
名古屋ではブランド品は「母親に買ってもらうもの」で、高級ブティックは母娘ワンセットが常識。母娘揃ってブランド大好き。
運転マナーが悪い「名古屋走り」
“独自ルール”をこれでもかと詰め込んだのが、愛知県名古屋市の道路で見られるという「名古屋走り」だ。
「ウインカーを出さずに進路変更、無理な割り込みなどマナーの悪さが目立ちますが、とくに『右折フェイント』なるものが有名だと聞いています。渋滞を避けるため右折車線を走行し、交差点直前で直進車線に戻るという“荒技”で、他県からの旅行者や転勤者は恐怖に感じる」(交通ジャーナリスト・今井亮一氏)
「開店祝い」、「お葬式」の花を持ち帰る
新規開店時に飾られる「祝い花」やお葬式の花を、お客さんが持ち帰ってしまう。
【反論】「開店祝いの花を持ち去る」習慣は「良いこと」(自民党・熊田裕通氏)
愛知1区選出の衆院議員である自民党の熊田裕通氏は「開店祝いの花を持ち去る」習慣は、むしろ「良いことだ」と話す。
「記事で最も違和感を覚えたのが、この風習を“悪いこと”のように書かれていたことです。僕は“良いこと”だと思っています。だって、ずっと置いておけば花は枯れますよね。だから、祝いの花を持って行くことで、開店の喜びを皆さんで共有するという意味が出てくる。なぜ、それを批判するのか疑問ですね」
エスカレーターは“両側”とも歩かない
エスカレーターでは“両側”とも歩かない。東京は右側、大阪は左側を歩く人のために空けるが、名古屋では通勤時間帯以外は両側に人が立ち止まっていることが多い。
【反論】「両側立ち」の名古屋ルールが世界標準に
昨年11月、ロンドン交通局が「片側空け」と「両側立ち」のエスカレーターの比較試験を実施した。その結果、「片側空け」のエスカレーターが1時間に2500人の乗降客を運んだのに対し、「両側立ち」は3250人と、3割増しの数字を記録したのだ。
論文ではその理由を〈長いエスカレーターを歩いて上ろうとする人はあまりいないため、エスカレーターの下で右側に立つために待機する人が増加する〉と分析している。「片側空け」の起源とされるイギリスで「名古屋ルール」の方が効率的だと証明されたのだ。
【反論】「両側立ち」は効率的かつ、安全な乗り方
日本エレベーター協会が「片側空け」の危険性について指摘している。「両側立ち」は効率的なだけでなく、安全な乗り方ということになる。これを名古屋で絶大な人気を誇るラジオパーソナリティのつボイノリオ氏に伝えると、「ほれみたことか!」と、満面の笑み。
「名古屋では江戸時代から工業が発展し、世界のトヨタまで生まれた。それは名古屋人には情ではなく、道理で考える文化があったからだと思う。だから、たとえ揶揄されても、安全で人を多く運べるエスカレーターの乗り方を取り入れたのでしょう。全国の人にもそういう名古屋のことをきちんと理解し、見直していただきたい」
名古屋の特殊性(名古屋人気質)
待ち合わせに遅刻するのは当たり前
友人関係や仕事の場でトラブルの元になるのが名古屋人の「時間のルーズさ」だ。待ち合わせに遅刻するのは当たり前で、他の都市からは「名古屋時間」と揶揄される文化がある。車社会ゆえ、“遅れても渋滞だったことにすればいい”という甘えがあり、“待ち合わせは遅れるもの”と思っている」(川合氏)
「スタバ行っちゃってさ」とコメダ珈琲で話すのが好き
地元のコメダ珈琲を愛する反面、名古屋人は「権威に弱い」性質がある。地元喫茶店のサービスは豪華だが、スターバックスコーヒーはつまみがないが、カッコイイから入るという人も少なくないという。
「『この前、スタバ行っちゃってさ』とコメダ珈琲で話すのが好き(笑い)。トヨタという“誇り”がありながらベンツなど外国高級車にも“浮気”する」(川合氏)
ヨソ者嫌いで「上から目線」?
「上から目線」と言われるヨソ者嫌いの名古屋人は、サークルKが統合されることに深く落胆する。
「地元発のコンビニ・サークルKが2018年2月までにファミリーマートに統合されることになり、それが『外資に買収される』ような感覚で耐えられない。同じく閉鎖的とされる京都は一時的な腰掛けの人に優しいですが、名古屋は逆に“腰掛けなら来んでええ”と手厳しい。反面、名古屋が好きで一生住みたいという人はガッと受け入れますね」(川合氏)
「名古屋人の前で、市外の出身者は肩身が狭い」(天野ひろゆき氏)
よく指摘されるのが、“よそ者”を過度に嫌う風潮だ。愛知県岡崎市出身のお笑い芸人キャイ~ン・天野ひろゆき氏も名古屋人の「階級意識」を実感する。
「ぼくが名古屋の人の前で“名古屋出身です”というと、“お前は岡崎だろ”と必ず突っ込まれる。東京在住の芸能人が“同郷で集まろう”と企画すると呼ばれるのは名古屋出身者が多くて、僕ら市外の出身者は肩身が狭い(苦笑)」
「何でも“いかん”と否定から入り、けなしてしまう」(森田正光氏)
お天気キャスター・森田正光氏は、名古屋人が嫌われる一因は、「けなし癖」にもあるという。
「名古屋人は何でも“いかん”と否定から入り、けなしてしまう。例えば、喫茶店でも、“昨日の店のほうがパンが分厚い”と文句を言うから嫌がられる。この天邪鬼は名古屋人に深く根づいていて、僕の天気予報も、“気象庁は晴れると言っていますが、雨が降るかもしれません”と名古屋流。予報においてはこれが意外とウケたんです(苦笑)」
豪華なモーニングはイチャモン気質から
名古屋の喫茶店は豪華なモーニングが有名だが、客は喫茶店でもらったつまみを家に持ち帰る。
「名古屋人は『あの店はもっと出とった』と平気で主張しますから、競争せざるを得ない。喫茶店の豪華さは気前の良さというより、イチャモンへの対応が生んだ副産物。その証拠に、袋入りのつまみは開けずに持ち帰って家で食べる」(川合氏)
何かと理屈をつけて値切る
名古屋人は“イチャモン気質”があると指摘されるが、それが露わになるのがモノを買うときだ。
「名古屋人は、何かと理屈をつけて値切ります。ビジネスでも見積もりで値切り、納品で値切り、振り込みで値切る三段値切りで、オマケまで要求します。自動車を購入する際も3~4店の相見積もりは当然で、『隣のトヨペットはこの金額だぞ』と平気で言います」(川合氏)
【反論】「“批判”ではなく、“目が肥えている”」(自民党・熊田裕通氏)
自民党・熊田裕通氏は「名古屋人は批判ばかり」という指摘を否定する。「そう言わず、“目が肥えている”と思っていただきたい。例えば、お笑いの方々は名古屋を凄く重視すると聞いたことがあります。名古屋でウケたら全国でも必ずウケるといわれるほど、笑いに厳しいそうです」
結婚式場は派手だが、式は意外と地味
その“節約”ぶりの実態を示すのが、名古屋の結婚式場は派手だが、式は意外と地味ということである。「豪華な結婚式場があちこちに建っていますが、実際の結婚式の内容はお菓子を屋根からまく程度で、見た目は派手だが金はかからない」(川合氏)
車は下取りを考えて土足禁止
自動車社会で「車は一人に一台」がモットーの名古屋人は、車内は土足厳禁とすることが多い。
「新車を買った瞬間から下取りのことを考えて、車内を汚さないよう土足禁止にします。運転時はスリッパを着用し、同乗者にも『靴を脱いで』と求める」(名古屋市在住の30代男性)。名古屋市内の中古車販売店では、セールスマンが「土禁車なので状態良好です」とアピールするのだという。
【反論】「名古屋人は倹約家。『ケチ』と言う前に見習うべき」(井沢元彦氏)
「バブル崩壊の時に一番被害が少なかったのは名古屋です。名古屋の企業はほとんど“土地転がし”に手を出さなかったから、被害を最小限に抑えられた。『ケチだ』などと言う前に、名古屋を見習うべきだと思いますよ。倹約家ですが、単なるケチとは違うんです」
「無駄な金は使わないけど、使う時はちゃんと使っている。例えば戦後、シンボルである名古屋城は早い時期に復元されましたが、本当にケチだったら城なんて作りませんよ」(井沢氏)
【反論】「豊臣方に対する徳川家の防波堤。生き抜くためにケチにもなる」(森本レオ氏)
名古屋市中川区出身の俳優・森本レオ氏は、名古屋の「いじましさ」は歴史の産物であるという。
「名古屋は元々、大阪で牙を研ぐ豊臣方に対する、徳川家の防波堤でした。名古屋に住む人は、庶民という名の哀しい“辺境警備隊員”だったんだぜえ。ずっと木曽川睨み続けてさ。我々の祖先は怯え続けていたわけで、そりゃあ生き抜くためにケチにもいじましくもなりますよ。歴史に学ぼ」
その他の反論と擁護の声
「『週刊ポスト』が名古屋ぎらいって、何言っとるんだ」(河村たかし氏)
「政令指定都市で、最も地方交付税を出しとるのも名古屋です。名古屋は『上納率』といって、市民が払った税金のうち、自分のところで使われている率が30%で一番低い。あとの70%は上納しとんですよ」「東京みたいな上納の胴元におる『週刊ポスト』がよう、名古屋ぎらいって、何言っとるんだ」(河村氏)
「東京よりも大阪よりも名古屋が“日本を支えとる”」 (河村たかし氏)
「名古屋港の貿易黒字は毎年6兆円もあるのよ。まあ半分は“トヨタ大明神”のおかげですけど。愛知県レベルで言っても、モノづくりの指標となる製造品出荷額は44兆円。2位が神奈川の17兆円、3位の大阪が16兆円。圧倒的ですがな。だで、東京よりも大阪よりも名古屋が“日本を支えとる”わけです」(河村氏)
「名古屋人が日本を作った」(井沢元彦氏)
「そもそも名古屋出身の傑物である織田信長や豊臣秀吉に仕えていた優秀な家臣たちが、全国に散ったことで日本は発展した。熊本の人が敬愛する加藤清正は名古屋出身だし、高知の山内一豊も尾張出身。福岡を発展させた黒田官兵衛は秀吉の軍師ですし、金沢の文化だって2人に仕えた前田利家が生んだもの。みんなこの事実を知らずに批判している。ルーツを辿れば名古屋人が“日本を作った”と言っても過言ではない」(井沢氏)
「目の敵にされるのは、目が肥えた名古屋人の批評が面白くないから」(井沢元彦氏)
「江戸時代から、名古屋は『芸どころ』と言われました。東と西の間に位置するため、京都や大阪の役者も、東京の役者も双方が名古屋で興行する。見比べる機会があったのは名古屋だけだったので、目が肥えた名古屋人には辛辣な批評精神が育った。ですが、言われる方は面白くないので、『悪口ばかり言う』と批判の対象になったのでは?」(井沢氏)。井沢氏の鋭い反論も名古屋人の「批評気質」ゆえか。
「『名古屋ぎらい』は根拠なく気の毒」(『京都ぎらい』著者・井上章一氏)
同企画の“元祖”というべき『京都ぎらい』の著者・井上章一氏に「名古屋ぎらい」について尋ねてみた。「名古屋ぎらいには根拠がなく、非常に気の毒です。私はバッシングに乗るより、名古屋のためになってあげたい」。まさかの“名古屋擁護発言”である。
井上氏は「京都と名古屋は全然違う」と強調する。「京都では、東京出張をいまだに“東下り”と呼んで見下し、同じ京都在住でも洛中は洛外を差別する。このいやらしさは京都独自のもの。名古屋は市のシンボル・鯱のマークがあふれ、陸上自衛隊の装甲車にも日の丸の代わりに鯱が入っていて実に郷土愛が豊かな都市です」
「『名古屋ぎらい』は、人間の“本性”によるもの」(井上章一氏)
井上氏は「名古屋ぎらい」が盛んなのは、人間の“本性”によるものだという。
「人間には他者を見下して偉ぶりたいというドス黒い気持ちがあります。これが外に向かって悪い方向へ行きすぎるとヘイトスピーチにつながりますが、名古屋を標的にしてからかっても差別問題には発展しない。名古屋の人には気の毒ですが、今後も日本人が差別主義者にならないための“安全弁”になってほしい」
「名古屋人はサービス精神が旺盛」(フードライター・松浦達也氏)
名古屋めしには「サービス精神」が溢れている、とフードライターの松浦達也氏は指摘する。
「名古屋人はサービス精神が旺盛で、相手が喜ぶなら少しぐらい大げさに振る舞います。東京や大阪と違い、いい意味で洗練されておらず、目の前のお客さんを喜ばせるために味つけや盛りつけがどんどん過剰になった。食わずぎらいの人が多いですが、食べてみると記憶に突きささる。しばらくしたらまた無性に食べたくなる」
「名古屋ぎらい」特集の反響とその後
名古屋ぎらい特集で編集部に抗議殺到
本誌・『週刊ポスト』2016年8月19・26日号の発売日である8月8日、編集部には名古屋から“お叱り”の電話が殺到した。怒りの発端は、特集「名古屋ぎらい」だ。記事は大きな反響を呼んだが、地元からは「結婚式の引き出物が大きいのは気前が良い証拠だ!」「ジャンケンのチョキを“ピー”と呼んで、何が悪い!」といった反論が噴出した。
「全国誌で取り上げられ嬉しくて、ポーズで怒っている側面も」(川合氏)
「名古屋人には、何でも文句をつけて批評したがる“イチャモン気質”があります。また口にはしませんが、地元愛が非常に強い。だから、“名古屋ぎらい”と正面から言われると、ムキになって反論してしまう。その一方で、ポストさんのような全国誌で取り上げられることが嬉しくて、とりあえずポーズで怒っている側面もあるはずです」(川合氏)
河村たかし市長も「訪問したい都市で最下位」に危機感
河村たかし・名古屋市長は、8月30日に行なわれた名古屋市と愛知県との交流の場で繰り返し、こう嘆いたという。
「うちが調べた数字で、行きたくない街ナンバーワン。よほど危機感を持って面白い街をつくらにゃあ」。河村市長といえば、『週刊ポスト』の「名古屋ぎらい」特集第1弾(8月19・26日号)で、「名古屋が日本を支えとる。ポストは何を言っとるんだ」と強気の発言をしていたはず。さすがに今回の調査結果が堪えたようだ。
朝日新聞の名古屋版が「名古屋の魅力アップ策」募集
『週刊ポスト』が提唱した「名古屋ぎらい」の波紋は、なおも広がる。朝日新聞の名古屋版(9月4日付)は読者投稿の「声」欄で前述のネット調査の結果を振り返り、〈どうすればこの汚名を返上できるのでしょう。ぜひご意見や魅力アップ策をお寄せ下さい。ご自分の「名古屋愛」に関するエピソードでも結構です〉と読者に「魅力アップ策」を問う、異例の呼びかけを掲載した。
ついに名古屋人が真剣に「名古屋ぎらい」について考え始めた
9月10日、名古屋に関するイベントを行なうNPO法人「大ナゴヤ大学」が、『魅力のない街? 名古屋について考える』というシンポジウムを開催した。
シンポジウム開始から1時間ほどが経った頃、会場の大型スクリーンには〈なぜ週刊ポスト「名古屋ぎらい」特集は組まれたのか?〉というタイトルが映し出された──。ついに、名古屋人たちが真剣に「名古屋ぎらい」について考え始めたのだ。
「週刊ポストさんに注目して貰えるのはすごく嬉しいこと」(大ナゴヤ大学学長・加藤幹泰氏)
講義には、「名古屋を面白いと思って活動している」という6人の講師が登壇し、各々が「魅力がない」とされる名古屋の課題について熱く語った。司会を務めた大ナゴヤ大学・学長の加藤幹泰氏がいう。
「魅力を感じる街づくりのためにイベントを企画しました。(週刊)ポストさんに注目して貰えるのはすごく嬉しいこと。芸人だってイジられるから売れるんです。名古屋人が、イジられて反発するばかりのプライドの高い奴みたいに思われるのはもったいない。結局は咀嚼する人間の度量の問題です」
河村たかし氏「桶狭間復元してディズニーに勝つ」
もしかして、名古屋人が自らを省み、「意識改革」を始めているのでは? そう考えた本誌はまず「あの人」にもう一度話を聞こうと考えた。かつて本誌取材に「名古屋が嫌い? 東京モンが何いっとるんだ!」と吠えた河村たかし・名古屋市長である。
──名古屋が「訪問したくない都市1位」を脱却するために、どうするべきなんでしょう?
「名古屋人が昔のように誇りを持てないのは、戦争で名古屋城が燃えてしまったからですよ。幸いなことに名古屋城には実測図が残っとりますから。寸分違わず修復して、一大アミューズメントにしたいんだぎゃ。で、もうひとつ腹案があるでね。『桶狭間の戦い』で清須城から信長が出陣して辿ったルートの復元よ。歴史上の紛れもにゃあ本物が残っているんで、ディズニーランドにも負けませんよ!」
河村氏「とにかく、誰が何といおうと名古屋は日本一の街」
「とにかく、誰が何といおうと名古屋は日本一の街ですよ。御三家筆頭として、もう一度東京を打ち破って将軍を出す、そんな心持ちですよ。トヨタの技術革新のおかげで、名古屋港の貿易黒字は毎年6兆円。そのカネが東京に流れて、首都を支えとるんです。『週刊ポスト』も支えとるんだ。そのくせ東京モンが何を威張っとるんだといいたい! 『名古屋ぎらい』なんて、何いっとるんだぎゃ!」(河村氏)