インドで因果応報と輪廻の思想が生まれると、閻魔は地獄の王様になります。そして、日本に伝わってくる過程で地蔵菩薩に近づき、日本で作られた偽経(偽物のお経)『地蔵菩薩発心因縁十王経』で閻魔は地蔵菩薩の化身とみなされました。
この偽経によって三十三回忌までの十三仏が指定され、地蔵菩薩は五七日忌の本尊になりました。その真言は「オーン・ハハハ・ヴィスマイェー・スヴァーハー」です。ここで「オーン」は阿吽という聖語、「ハハハ」は笑い声、「ヴィスマイェー」は「希有なり」、「スヴァーハー」は感嘆詞です。
益子西明寺は鎌倉時代から観音菩薩の札所ですが、江戸時代に地蔵菩薩の法事も行なうようになりました。それに伴って1714年に閻魔堂が建てられ、大きな笑い閻魔像が造られました。
アイバンクや腎バンクに登録する人を「ドナー」と言いますが、これは元を辿れば檀那・布施という言葉と共通です。「贈り物をすること」という意味の梵語「ダーナ」が音を写して「檀那」と漢訳され、意味をとって「布施」と訳されました。英語では「ドネーション」です。西洋の「ユーモア」と東洋の「笑いの布施」は、深いところで繋がっているようです。
●たなか・まさひろ/1946年、栃木県益子町の西明寺に生まれる。東京慈恵医科大学卒業後、国立がんセンターで研究所室長・病院内科医として勤務。 1990年に西明寺境内に入院・緩和ケアも行なう普門院診療所を建設、内科医、僧侶として患者と向き合う。2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月と自覚している。
※週刊ポスト2016年11月25日号