2つ目のケースでも、免許返納とは違う事故防止アプローチがあると国沢氏は話す。
「認知症でなくとも運転の能力が衰え始めているようなドライバーに多いのはアクセルとブレーキの踏み間違い。これを事故に至らせないようにする車の機能の開発を進めるべきなのです」
交通事故総合分析センターによると、2013年度の「踏み間違い」による事故は全国で6402件あったと推計している。1日17件のペースで起きているということだ。
11月12日に東京・立川市の国立病院機構災害医療センター敷地内の駐車場で起きた事故も、そうしたケースの一つと疑われている。この事故では、83歳の女性がアクセルとブレーキを踏み間違えたと思われ、30代男女2人が死亡した。
「前進方向の踏み間違いはすでに各自動車メーカーの最新車種では自動ブレーキが搭載され、かなりの部分を防ぐことができます。アクセルを踏み込んでも急発進はしません。バック方向の踏み間違いについてはメーカーが二の足を踏んできましたが、今月発売されたスバルのインプレッサには『踏み込んでもノロノロにしかバックしない機能』が標準装備された。
この2つが標準装備されれば死亡事故は大幅に減る可能性がある。国は、この2つを標準装備した車を高齢者の安全装備のセットにして、免許更新の条件にすべきです」(国沢氏)
前述の横浜市で起きた軽トラック事故では、はじめに別の乗用車に衝突し、そのはずみで歩道に突っ込んでいる。自動ブレーキがあれば追突前に緊急停止することによって被害を最小化できた可能性がある。元個人タクシー運転手で25年間無事故無違反だった高水保三氏(66)も同意する。
「いまは高級で比較的大型の車にしか自動ブレーキが搭載されていない。高齢者がチョイ乗りする軽自動車に搭載されるようになれば、やむにやまれぬ事情で運転しているシルバードライバーにとって非常にありがたい」
問題解決には様々なアプローチがあるはずだ。シルバードライバー当事者の本音にも耳を傾ける。それもまた不幸な事故を減らす上で、必要なことではないか。
※週刊ポスト2016年12月2日号