今回さだは、永六輔を2つの方向から振り返った。そのひとつは歌だ。今月、『永縁~さだまさし 永六輔を歌う~』という永六輔作詞の歌をカヴァーしたアルバムをリリースしたのだ。
「改めて、永さんの歌をCDに吹き込む──自分の根っこを見るみたいな感じでしたね。気づいたら、釈迦の手のひらにいたような。ここに歌詞のすべてがありました。人は生まれ、生きて、死ぬ。その折々の風景を見事に捉えている。『遠くへ行きたい』なんてまさにそう。あれを超える旅の歌はありません。もっと勉強して、短くわかりやすく、誰もが聴いて楽しめる歌をつくれ。そう永さんに言われている気がしたな」
もうひとつは、「永さんの思い」だ。
「永さんは1年中旅をしているような人だから、なかなか会えない。バッタリ会うと『まさし、時間ある?』と聞いてきて、底の見えない引き出しの奥から話を引き出してきて披露する。呆気にとられていると、『じゃあね』と颯爽と去って行く。これは心して話を聞かないといけないぞと思ったまま時が過ぎ、ようやく念願の対談が実現したんです。今回じっくり話を聞いて、『そうだったのか』と頷くこと、考えさせられることがたくさんありました」
それが、永六輔最後の対談集となった『笑って、泣いて、考えて。永六輔の尽きない話』(小学館刊)だ。
さだは、永六輔が「旅人の系譜」にあると気づいたという。
「日本では昔から、芭蕉や西行、そうした詩人たちが、旅をし、そこで感じたことを文字で伝えてきました。日本の文化の特徴です。こうした旅人の系譜に、永さんもいます。永さんは日本全国津々浦々を旅し、そこで見つけたことを、ラジオという電波に流して伝えました」
テレビ番組の『今夜も生でさだまさし』を、あえてラジオの生放送スタイルで放送しているのも、さだまさしにとっては、ラジオに生きた永六輔へのリスペクトなのかもしれない。
「勝手な思い込みですが、永さんから“バトン”を渡された気がしているんです。これから一生かけて、背中を追わないといけません」
そう言うとさだは、番組の終わった深夜過ぎ、次の旅先へと車で向かった。
●さだ・まさし/長崎市生まれ。フォークデュオ・グレープを経てソロ歌手に。『関白宣言』などのヒットを飛ばす。小説に『かすてぃら』『風に立つライオン』など。今年11月に永六輔の作品を歌い継ぐCDアルバム『永縁~さだまさし 永六輔を歌う~』をリリースした。永六輔の「好奇心」「行動力」「人脈」「仕事」の秘密を聞き出した、新刊『笑って、泣いて、考えて。 永六輔の尽きない話』が発売中。
●撮影/江森康之 文/角山祥道
※週刊ポスト2016年12月9日号