在宅緩和ケア医の萬田緑平医師
「がん放置療法」の近藤誠医師と、外科医から在宅緩和ケア医に転じた萬田緑平医師は、ともに大学病院勤務時代、がん治療に苦しみ抜いて亡くなる大勢の患者を見て「がんの治療をしないこと、やめることは、生きるのをあきらめることではない。よりよく長く生きるための、賢い選択だ」という結論に達したという。対談集『世界一ラクながん治療』(小学館)で、確信をもって、こう語りあっている。
「萬田さんは、がんになったら治療を受ける?」
「いや、全く受ける気ないです。外科医時代は、苦しくて悲しい死ばかり見てきました。いまは患者さんにも、がんを治そうとする治療はいっさいしません。『治療をあきらめるんじゃない。治療をやめて自分らしく生きるんだ』というのが僕のモットーです」
「僕も同じ。ここ40年、検査も健康診断も受けてない。なにか見つけると気になるし、それであわてて治療すると、苦しんだり、早死にしやすいから」
「僕の母は10年以上前に超早期のすい臓がんと診断された。もちろん、手術はさせませんでした。母はいまも元気に水泳してます」
対談には、25cmの巨大な卵巣がんと腹膜転移を抱えて、腹水を抜くだけで3年以上、ふつうに子育てと仕事をしている40代の女性や、悪性度の高いスキルス胃がんを放置して会社経営を続け、9年目に食が細ってきても海外旅行を楽しみ、初診から10年近く生きて72歳で亡くなった男性など「生気にあふれた末期がん患者」も数多く登場する。
「僕の患者さんにも、がんを治療しないで様子をみたら、全身に転移が見つかってからも10年、20年と生きた人、がんが消えた人が大勢います。数万人の患者さんを診て改めて、がん治療を続けるほど苦痛が長引き、命が縮む。がんは治療しない方が長生きする、と実感しています」
「いま進行がん、末期がんでもモルヒネなどで苦痛をきちんと抑えてゴルフや旅行を楽しみながら、何年も生きる人はたくさんいますからね」
萬田医師は、がんの治療をやめて家に帰ったがん患者の「明るい旅立ち」によく立ち合うと言い、「(スマホを取り出して近藤医師に)この写真、見てください。なんと亡くなる前日ですよ」。
「おじいちゃんがベッドで家族に囲まれて…うれしそうにピースしてるね。(医療崩壊した)夕張市のおばあちゃんが、がんを治療しないで家でふつうに暮らして、90歳で亡くなる前日まで、好物のおまんじゅうを食べていた、というニュースも見ました」
「僕が診てきたがん患者さんも、亡くなる日まで家族とおしゃべりしてコトッと逝ったという人が、けっこういます。本人の望み通りに家で過ごしていると、容態が急変ということはなくて、スーッと亡くなります」
◆日本人の死に方の転換期。この10年「老衰死」が急増