戦後、ずっと減り続けていた「老衰死」の数が、高齢者人口の増加とともに10年前から増え始め、2015年には戦後最高の7万5340人に達した(厚労省『人口動態調査』)。この10年余りでほぼ3.5倍に増えた計算だ。
背景には「最後までとことん治療されるより、なるべく自然に息を引きとりたい」という望みの高まりがある。点滴や胃ろう(腹部にあけた穴から、胃に直接チューブを入れて流動食を流し入れる方法)などの延命治療を望まない人も増えている。
千葉県の「終末期医療のあり方について」という県民アンケートで、延命治療について、9割以上が「望まない」「どちらかというと望まない」と回答。
日本人が、生活の質(QOL)とともに死の質(QOD=クオリティ・オブ・デス)」について自分なりの考えを持ち始めているのだ。
かつて日本人の多くは住み慣れた家で、老衰死していた。年をとって、どうも体調がよくない、食欲がない…と思っているうちに、寝ている時間が長くなり、食物も水もあまりとらなくなり、しだいに意識がぼんやりしていって、ロウソクの火が消えるように逝った。
がんの治療もほかの病気の治療もなるべく遠ざけ、痛みや呼吸苦だけは抑えて体を自然に任せたい。そう望む日本人が、今後ますます増えていくのかもしれない。