ライフ

藤田嗣治、クラーナハ、岩佐又兵衛 新春に味わう珠玉アート

千葉県佐倉市のDIC川村記念美術館はフジタ展を開催

 アートは人生を豊かにする。新春の静謐な空気は鑑賞をより味わい深いものに変えるだろう。作家で五感生活研究所の山下柚実氏がお薦めの展覧会を紹介する。

 * * *
 いよいよ2017年、新たな年の幕開け。清々しい春の陽の中で、身も心もリフレッシュ。

 禅の言葉に、「二念を継がない」というフレーズがあります。人はついつい、余計なことを考えてしまいがち。言葉が言葉(二念)を呼び、考えなくてもいいことを考えて悩む。「あの人はなぜこんなことを言ったのか」、「どうしてこんな結果になったのか」と。

 もちろん、冷静に過去を分析し次に活かすことは大事でしょう。しかし、考えても無意味なことをぐるぐる考え雑念を膨らませるのは消耗以外の何ものでもない。今年こそ禅の教えに従って、いらないストレスや心配ごとに心が占拠される状態を脱したいもの! そのためにも「言葉」からひととき離れ、頭の中を真っ白にする時間を持ちたい。

 目の前にある形や色、ただ見えたものを見えたままに受け取り味わう。それがアート鑑賞の醍醐味です。見回せば、身近なところに世界的な水準の素晴らしいアートがズラリ。ということで、今年一見の価値ありの展覧会をピックアップ。

 まずは年明け早々、芸術的な白い肌を鑑賞したい方は……。

●「レオナール・フジタとモデル」展

 19世紀後半のヨーロッパにおいて日本人で最も成功したと言われる芸術家、そして生誕130年を迎えたレオナール・フジタ/藤田嗣治(1886-1968)。数あるその作品の中から、モデルと画家の関係をたどりつつ鑑賞するこの展覧会。妻をモデルにすることも多かった藤田ですが、5回も結婚しただけに見応えは十分。 

 藤田といえば、まず浮かぶのが裸婦の絵。

「ルーベンスは脂肪を、ルノワールは血を、ピカソは人間の構造を描いた。だから自分は、まだ誰も描いていない『肌』を描こうと思った」(府中市美術館学芸員・音ゆみ子)と語るだけに、藤田作品は「乳白色の女性の肌」が特徴的。ですがこの展覧会では「男の裸」も実に印象的に迫ってくるのです。

 展覧会では、ド迫力の作品に出会うことができる。長い間行方不明になっていた数奇な運命の群像画──《ライオンのいる構図》《犬のいる構図》《争闘 I》《争闘 II》。何層にも重なった筋肉の盛り上がりと曲線、躍動する身体の美しさ。巨大な壁画一杯に埋め尽くされた裸体。藤田の関心は女だけでなく男の肉体にも向かっていたのでした。

 1992年にパリ郊外の倉庫で発見され、大修復されてお目見え。ちなみにフランスでは「歴史的建造物」、日本でいう国宝に指定されている貴重な作品……と作品も素晴らしいけれど、DIC川村記念美術館はヨーロッパの古城を連想させる建物と広大な庭園とが溶け合った異空間。東京ドームが6つも入るスケールです。散策すればまるで「一日ヨーロッパ」。非日常に浸りたい方にオススメ。

千葉県佐倉市・DIC川村記念美術館(1 月15 日まで)

●「クラーナハ展―500年後の誘惑」

 こちらも美しく透明な肌に魅惑的な表情の女たちの絵が並んでいます。時代はさらに遡り、500年前のドイツ・ルネサンスを代表する人気芸術家・クラーナハ(1472-1553年)の作品がズラリ。実は、日本で初めての展覧会。ウィーン美術史美術館の特別協力によって100点近い大規模に。おそらく二度とは実現できない充実ぶりです。

 一見すると、高貴な人々の豪華な肖像画。そして物語に出てくる美しいヒロインたち。しかし、「特異というほかないエロティシズム」(公式HP)が漂う。切り取った生首。下半身の上に視線を誘うような透ける布。醸しだされる「エロとグロ」の気配。見ても見ても、見飽きない細部。金属のネックレス、光るガラス、刺繍にビロード、ふくよかな肌。筆一つで違う質感を描き分ける超絶技巧、ゾクゾクしながら鑑賞できる。

 大きな工房を構えて職人を使い、絵を量産した優秀なビジネスマンでもあったクラーナハ。商売の才覚に優れていたからこそ、「どうしたら人の関心をかきたてることができるか」「目を惹きつけるか」といった「誘惑的方法」を編み出せたのかもしれません。

上野・国立西洋美術館(1月15日まで) 大阪・国立国際美術館(1月28日〜 4月16日)

関連記事

トピックス

出廷した水原一平被告(共同通信フォト)
《水原一平を待ち続ける》最愛の妻・Aさんが“引っ越し”、夫婦で住んでいた「プール付きマンション」を解約…「一平さんしか家族がいない」明かされていた一途な思い
NEWSポストセブン
公務に臨まれるたびに、そのファッションが注目を集める秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
「スタイリストはいないの?」秋篠宮家・佳子さまがお召しになった“クッキリ服”に賛否、世界各地のSNSやウェブサイトで反響広まる
NEWSポストセブン
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でハリー・ポッター役を演じる稲垣吾郎
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』に出演、稲垣吾郎インタビュー「これまでの舞台とは景色が違いました」 
女性セブン
司組長が到着した。傘をさすのは竹内照明・弘道会会長だ
「110年の山口組の歴史に汚点を残すのでは…」山口組・司忍組長、竹内照明若頭が狙う“総本部奪還作戦”【警察は「壊滅まで解除はない」と強硬姿勢】
NEWSポストセブン
麻薬取締法違反容疑で家宅捜査を受けた米倉涼子
「8月が終わる…」米倉涼子が家宅捜索後に公式SNSで限定公開していたファンへの“ラストメッセージ”《FC会員が証言》
NEWSポストセブン
巨人を引退した長野久義、妻でテレビ朝日アナウンサーの下平さやか(左・時事通信フォト)
《結婚10年目に引退》巨人・長野久義、12歳年上妻のテレ朝・下平さやかアナが明かしていた夫への“不満” 「写真を断られて」
NEWSポストセブン
バスツアーを完遂したイボニー・ブルー(インスタグラムより)
《新入生をターゲットに…》「60人くらいと寝た」金髪美人インフルエンサー(26)、イギリスの大学めぐるバスツアーの海外進出に意欲
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【ハワイ別荘・泥沼訴訟に新展開】「大谷翔平があんたを訴えるぞ!と脅しを…」原告女性が「代理人・バレロ氏の横暴」を主張、「真美子さんと愛娘の存在」で変化か
NEWSポストセブン
小林夢果、川崎春花、阿部未悠
トリプルボギー不倫騒動のシード権争いに明暗 シーズン終盤で阿部未悠のみが圏内、川崎春花と小林夢果に残された希望は“一発逆転優勝”
週刊ポスト
「第72回日本伝統工芸展京都展」を視察された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月10日、撮影/JMPA)
《京都ではんなりファッション》佳子さま、シンプルなアイボリーのセットアップに華やかさをプラス 和柄のスカーフは室町時代から続く京都の老舗ブランド
NEWSポストセブン
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《黒縁メガネで笑顔を浮かべ…“ラブホ通い詰め動画”が存在》前橋市長の「釈明会見」に止まぬ困惑と批判の声、市関係者は「動画を見た人は彼女の説明に違和感を持っている」
NEWSポストセブン
国民スポーツ大会の総合閉会式に出席された佳子さま(10月8日撮影、共同通信社)
《“クッキリ服”に心配の声》佳子さまの“際立ちファッション”をモード誌スタイリストが解説「由緒あるブランドをフレッシュに着こなして」
NEWSポストセブン