ダメコンは会社の診断をして「悪いところが28ありました。これをすべて解決してください」と言い、見えている現象を逆さまにして提言にする。つまり、「他社に比べて営業力が弱い→営業部を強化しましょう」「必要経費の全体像がわかりにくい→経費を見える化しましょう」という具合だ。
だが、どんな会社でも診断すれば50や100は悪いところが見つかるものである。そして、その根本的な原因は、突き詰めると1つに絞り込むことができるはずであり、そこだけ直せば、あとの問題は自然に直るケースが多い。
小池知事は防衛相時代などを見ると、周りから“悪者”を見つけて叩くことで人気を得てきた感があるが、それは「政治家」がやることだ。
知事は「政治家」というより行政の長、それも東京都知事は13兆6500億円の予算と16万6000人の職員を擁する日本有数の「超巨大組織のトップ」であり、いわば大企業の経営者と同じである。
企業経営の視点で考えると、小池スタイルでは大組織の東京都はうまく動かせない。大企業の経営者の鉄則は、自分が何もしなくても組織がしっかり動くようにすることだ。小池知事のようにありとあらゆる問題に自分がコミットし、“ダメコン”のような「有明アリーナ新設は高い→安く済む横浜アリーナを使いましょう」という程度の“改善案”を次から次へと繰り出す手法は、東京のトップとしては失格だ。
組織論から言えば、初歩的かつ決定的なミステイクを犯している。それは、大組織のトップは「自ら細かいアイデアを出してはいけない」ということだ。
自分が細かいアイデアを出せば、相手(森会長ら)から欠点を指摘され、つぶされてしまう。だが、相手に代替案を出させれば、否定されることはない。要するに、大組織のトップが中途半端なアイデアを出すと、前に進まないのだ。
では、小池知事は東京オリンピック・パラリンピック競技会場計画の見直し問題にどう対応すべきだったのか?
方法は2つしかない。1つは日産自動車のカルロス・ゴーン社長スタイルで「とにかくコストを3割削減してください」と言い張ることだ。「そうしないと、東京は応分の負担はできない」という条件のもと、相手にコスト削減のアイデアを出させるのだ。そうすれば攻守が逆転する。
もう1つは、組織の変更を要求し、自分たちが意思決定においてより強い立場になることだ。その上で最強のチームを作り、じっくり時間をかけて相手の主張を崩していけばよい。
もし私が小池知事だったら、前者を選ぶだろう。そのほうが追い込む立場が強くなり、都民にもわかりやすいからである。
※SAPIO2017年2月号