いたずらに大事件を起こしたり、特異なキャラクターを投入したり、小ネタを盛り込むなどの仕掛けで視聴者心理を揺さぶろうとするドラマも多い中、ヒロインの人柄を体現するような誠実な制作姿勢は、もっと評価されてしかるべきと思われます。
反面、それらの仕掛けを好むネットメディアやSNSにコメントを書く“能動的な視聴者層”に不発なのは必然。もともと朝ドラのメインである主婦や中高年などの“受動的な視聴者層”をガッチリつかんでいるからこその平均視聴率20%超であり、「前2作よりも視聴率が2~4%低いのは“能動的な視聴者層”が見ていないから」に過ぎないでしょう。
ヒロインもストーリーも『あさが来た』『とと姉ちゃん』のような派手さや爽快感はないものの『べっぴんさん』は、地に足のついた生き方や人間関係を描いた良作。その意味で前2作とは別品であり、毎日放送される帯ドラマにふさわしい作品とも言えます。
地味で地道な作品だけに、分かりやすい話題を振りまくことも、飛び抜けた評価を得ることも難しいでしょうが、そこはグッと我慢。放送が終了に近づく春には、「いい朝ドラだった」と惜しむ声が続出するのではないかとみています。
【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月20本前後のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組に出演。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動している。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。