もうひとつは、比較する別の絵本がなかったことだ。絵は地味でも、文がきらめいている絵本はたくさんある。誰もが認める名作が隣にあったら、未完成品の粗が目立ったはずだ。換言すれば、なぜ他の絵本はフリーミアムをやらないのか。そっちの怠惰の問題もある……とネットをうろついていたら、こんなサイトに出くわした。
〈1000万人が利用するNo.1絵本情報サイト〉の「絵本ナビ」である。絵本好きの間では何を今更だろうが、私は知らなかった。6万冊以上の絵本や児童書を紹介、購入もできるポータルサイトだ。そして、そこには「全ページためしよみ」可能な1896作品(コラム執筆時)が実装されている。
絵本ナビは2002年にグランドオープン、「全ページためしよみ」は2010年10月に正式スタートしている。その時に書かれたものだろう、絵本ナビ代表が「想い」を寄せていた(以下、改行を適宜、外す)。
〈子育てに忙しい毎日の中で、絵本選びにかけられる時間は十分ではありません。小さな子を連れて、本屋さんでゆっくり絵本を選ぶことは簡単ではありません。そんな子育て世代の絵本選びが、苦労から楽しみに変わるようにと、絵本ナビは2002年に誕生しました〉
〈それでもやっぱり、ネットで購入するということは、「エイヤ」で買うことに他なりません。そう、親にとっては、我が子に読む絵本は、きちんと全部読んでから与えたいのです〉
〈本の作り手からすれば、「家のパソコンから全部読めてしまったら、本を買ってもらえなくなってしまう」ということになります。(略)でも絵本は、絵本に限っては「全部読めるようにした方が、本を買ってもらえるのではないでしょうか」(略)その仮説を証明するように、「全ページためしよみ」対象作品は、大勢の方にご購入いただくことになりました〉
絵本のフリーミアムはとっくに実行されていたのだ。ところが、この「全ページためしよみ」が面倒くさい。利用にはメンバー登録が必要。スマホで読むならアプリのインストールも。読みたい作品を見つけてローディング、端末によっては時間がかかる。そして、出てくるのが紙の絵本をスキャンしたもの? 横スクロールでページをめくる。読めるが、全体的に薄ボケていて絵の魅力がだいぶ失われている。
対して、『えんとつ町のプペル』はクリック一発で、ブログを読むように縦スクロールだ。紙の本の写しではなく、専用のデザインなので快適だし、きれいだ。
さては西野、「全ページためしよみ」を反面教師に、無料公開版を作ったな、と思うほど、似て非なる読み心地。逆に、「全ページためしよみ」を西野式にすればすごいコンテンツになるはずだが、サイト運営者=絵本の著作権者ではないから、デザインの大幅変更など容易にはできない……。
ただし、『えんとつ町のプペル』で絵本のフリーミアムの威力は示された。もう事業化に着手しているのはアマゾンか、楽天か、そういう話になっていくのだろうか。