芸能

ピンク映画 人間の一皮剥いた本音が顔をみせる醍醐味がある

新東宝映画の地下倉庫には500本を超えるフィルムの山

 1961年に倒産した「株式会社新東宝」の配給網を引き継ぎ、1964年に誕生した「新東宝映画」は、ピンク映画を中心に製作し、自由闊達な社風から後の日本映画界を背負って立つ監督を次々と輩出した。評論家の切通理作氏が、かつてのピンク映画名作を振り返り、その醍醐味について解説する。

 * * *
 テレビで風俗リポーターを長年務めながら「カントク」と呼ばれていた山本晋也監督は、ピンク映画でコメディものの名手であった。その山本監督の映画に、満員の地下鉄から降りた平凡なサラリーマンが、こそこそと人目を忍んでピンク映画館に行く場面がある。彼はやがて電車での痴漢行為につい手を出すが、そこで他の痴漢と出会い、職場では出会えない男同士の連帯に目覚める。現在でも作られている、ピンク映画で「痴漢電車」と題されるジャンルは山本晋也が生み出したものだ。

 後に『おくりびと』(2008年)で米アカデミー賞を獲ることになる滝田洋二郎監督もピンク映画時代は痴漢電車ものを得意としていたが、『痴漢電車 極秘本番』という映画では、大坂夏の陣からタイムスリップしてきた猿飛佐助がたまたま入ったピンク映画館でオナニーに耽っていると、画面の中で女優とコトに及んでいた男優が突如客席の彼を指差し「オイそこのちょんまげ! 映画館でセンズリかいてんじゃねえよ。周りに迷惑だろ」とたしなめる。

 佐助と画面の中の男優は同じ螢雪次朗という役者が演じており、彼がピンク映画では当時常連俳優だったことを前提にした、観客との共犯関係が成立しているシーンだ。

 1971年、日本で一番古い映画会社である日活が「ロマンポルノ」路線になると、それ以前から日本にポルノ映画を定着させていた、より低予算の独立プロダクションによるピンク映画を、ともすれば二軍扱いする向きもあった。だがロマンポルノが終焉した後も、ピンク映画はしぶとく生き残っている。

 ピンク映画の老舗である新東宝映画は、近年こそ作品数が少なくなったが、映画としても見ごたえのある作品が多く「映画を見るなら新東宝」とファンの間で言われていた。

『白昼女子高生を犯す』(1984年、廣木隆一監督)は若者の間でサーフィンブームが起きている渦中で、夏の繁忙期にそんな若者たちを迎える側である田舎町に住む青年の、うだつのあがらない季節はずれの青春にスポットを当てた。『人妻拷問』(1980年、高橋伴明監督)は一見平和な団地に住む主婦たちの夫が集団レイプ犯であり、彼らに輪姦され自殺した女性の兄が復讐者としてやってくる。

『団地妻を縛る』(1980年、渡辺護監督)では、主婦が夫の焼く「くさやの干物」の匂いに嫌悪をもよおすが、加虐的な性格の夫は妻を縛ってくさやの干物を性具代わりに責めたてる。隣の部屋に住む若妻はその匂いのストレスで欲求不満になり……。

 表社会からだけでは見えない、人間の一皮剥いた本音が顔をのぞかせるのがピンク映画の醍醐味だった。暴行ものや拷問ものを多く手掛け、反体制的な若者の爆発に共感を寄せ政治的な過激派の活動ともリンクする若松孝二監督作品はその極北である。

関連キーワード

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン