【書評】『漂う子』丸山正樹/河出書房新社/1728円
【評者】伊藤和弘(フリーライター)
2014年5月、神奈川県厚木市のアパートで、男児の白骨死体が発見される事件があった。当時5才だった男児が餓死して7年後、厚木児童相談所が中学校に入学するべき男子生徒が入学していないと警察に通報。遺体が見つかり、父親が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。
この男児のように、学校に通わず、住民票があっても1年以上居場所が確認できない小中学生のことを「居所不明児童生徒」と呼ぶらしい。文部科学省の調査によると、全国の居所不明児童生徒は2012年時点で1491人。1年未満の子供、居住実態がないとして住民登録を抹消された子供も含めれば、その数はさらに膨れ上がる。
児童虐待も年々右肩上がりで増え続けている。児童相談所に寄せられる児童虐待相談件数は、2015年度についに10万件を突破。10年前の3倍になった。
本書はこうした子供たちをめぐる深刻な問題を正面から取り上げた社会派ミステリーだ。
直(なお)はフリーになったばかりの32才のカメラマン。小学校教師の祥子とつきあっている。ある日、祥子の教え子だった小学4年生の紗智が父親とともに失踪し、居所不明児童になった。直は紗智の行方を追って名古屋へ。児童相談所職員の羽田や、法の枠も踏み越えて子供の救済活動をする河原と出会い、児童虐待、児童売春、ストリート・チルドレンなど、子供をめぐる知られざる現実の数々と向き合うことになる。
居所不明児童には大なり小なり親が関係しており、虐待や貧困が背景にある。インターネットでひそかに売買されている非合法の少女DVDも、親が売り込みに来ることがほとんど。幼い娘に売春させる親も決して少なくないという。しかし、無力な子供たちはそんな親でも逆らうことができない。自分を虐待している親にすがり、かばう子供の姿も作中で描かれ、強い印象を残す。