小林:法律で「皇太子」をどう規定しようが、現実問題として次世代がいなくなるのはたしか。宮中祭祀も次世代に継承できず、天皇とその弟が2人でどんどん歳を取っていく姿を国民は見続けることになる。本来の皇太子が持つ新しい世代の輝かしさが失われるのは、天皇の権威を維持する上で危険だと思うね。
八木:悠仁親王がいらっしゃるじゃないですか。
小林:悠仁親王は皇太子じゃないから。いちばん国民の目に触れるのは天皇と皇太子でしょう。その2人が共に老いていく状態を放置していいとは思えない。庶民感覚にそぐわない制度にしちゃダメですよ。
八木:国民の多くは「制度」としての意味をほとんど考えていません。
小林:もともと天皇は制度じゃないからね。国民はそこに自分たちの父や母がいるような感覚で、天皇や皇后を見ている。そういう親密感が根底にあるんだから、それが崩壊した状態で制度だけ残っても、象徴としての権威は続きません。
八木:いや、基本的には制度です。歴史的に、日本人は天皇をいただく政治制度を重要視してきました。その下に社会がある。
小林:その制度を支えているのは国民の敬愛心です。ところが、世論調査では90%が退位に賛成なのに、政府の有識者会議はメンバーが反対派に偏っている。
八木:国民世論と同じ割合にするなら、有識者会議は不要でしょう。あのヒアリングは、国民にはわかりにくい難しい問題があることを浮上させるのが目的でした。その議論を聞いた上で、国民に冷静な判断をしてもらいたい。だから結果的に退位反対派の割合が多くなったのでしょう。
●こばやし・よしのり/1953年生まれ。『おぼっちゃまくん』でギャグ漫画に新風を巻き起こす。現在、本誌・SAPIOにて『大東亜論 自由民権篇』を連載中。3月1日頃に『天皇論 平成29年』が発売予定。
●やぎ・ひでつぐ/1962年生まれ。早稲田大学法学部・同大学大学院法学研究科修士課程を経て、同大学大学院政治学研究科博士課程を中退。専門は憲法学。2016年11月、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」で八木氏にヒアリングが行われた。
●構成/岡田仁志(フリーライター)
※SAPIO2017年3月号