ライフ

【書評】香山リカ氏が権力と報道との関係説く書を語る

【書評】『権力に迫る「調査報道」 原発事故、パナマ文書、日米安保をどう報じたか』高田昌幸+大西祐資+松島佳子・編著/旬報社/1800円+税

【評者】香山リカ(精神科医)

 昨年4月、タックスヘイブン(租税回避地)の莫大な登記情報「パナマ文書」の内容が世界で一斉に報じられ、日本にも衝撃が走った。その一種の機密文書には、課税逃れをしようとした世界の首脳や有名人に加え、日本企業の名前などもあったからだ。この報道で中心的な役割を担ったのは、アメリカの「調査報道」のNPO。60か国以上の記者が参加している。

 この「調査報道」とは、独自取材により隠された情報を世に知らしめる報道スタイルで、その目的はズバリ権力監視だ。その対極にあるのが「発表報道」だが、いま日本のメディアの「調査報道」は瀕死の状態と言われている。

 しかし、その中で気を吐くジャーナリストもいる。本書は、防衛機密や原発事故に関して調査報道を行い、スクープを飛ばした気鋭の記者8人へのインタビューを中心に構成されている。

 どの話もとてもスリリング。「おかしいな」と思ったら、周辺の聴き取りを行い、内部密告者がいないかを探し、取材対象との信頼関係を築く。ときには自宅への直撃取材を行うなど、映画顔負けの場面もある。いずれにしてもコツは日常の取材の中での小さな疑問を大切にすること、そして「権力監視が報道機関の役割」という原点を忘れないことのようだ。

 さらに、「パナマ文書」でもそうだったように、いまは会社やメディアの種類を越えた協働関係が不可欠だという。ネットを駆使して世界の記者たちがスクラムを組み、手分けして秘匿情報にアクセスし、スクープを共有するという新しい形が必要になる。

 トランプ新大統領は、自分に関して調査報道を行ってきたCNNなどを「偽ニュース」と激しく攻撃し、メディアと権力とに強い緊張関係が生じている。しかし、アメリカのジャーナリストたちは激しく抵抗し、連日、権力に噛みつくような記事を発信し続けている。さて、わが国はどうか。本書を読んで「調査報道こそ我が使命」と奮い立たなければ、マスコミ人になった意味がないはずだ。

※週刊ポスト2017年2月17日号

関連記事

トピックス

水原一平氏はカモにされていたとも(写真/共同通信社)
《胴元にとってカモだった水原一平氏》違法賭博問題、大谷翔平への懸念は「偽証」の罪に問われるケース“最高で5年の連邦刑務所行き”
女性セブン
尊富士
新入幕優勝・尊富士の伊勢ヶ濱部屋に元横綱・白鵬が転籍 照ノ富士との因縁ほか複雑すぎる人間関係トラブルの懸念
週刊ポスト
3大会連続の五輪出場
【闘病を乗り越えてパリ五輪出場決定】池江璃花子、強くなるために決断した“母の支え”との別れ
女性セブン
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
《愛子さま、単身で初の伊勢訪問》三重と奈良で訪れた2日間の足跡をたどる
女性セブン
水原一平氏と大谷翔平(時事通信フォト)
「学歴詐称」疑惑、「怪しげな副業」情報も浮上…違法賭博の水原一平氏“ウソと流浪の経歴” 現在は「妻と一緒に姿を消した」
女性セブン
『志村けんのだいじょうぶだぁ』に出演していた松本典子(左・オフィシャルHPより)、志村けん(右・時事通信フォト)
《松本典子が芸能界復帰》志村けんさんへの感謝と後悔を語る “変顔コント”でファン離れも「あのとき断っていたらアイドルも続いていなかった」
NEWSポストセブン
大阪桐蔭野球部・西谷浩一監督(時事通信フォト)
【甲子園歴代最多勝】西谷浩一監督率いる大阪桐蔭野球部「退部者」が極度に少ないワケ
NEWSポストセブン
がんの種類やステージなど詳細は明かされていない(時事通信フォト)
キャサリン妃、がん公表までに時間を要した背景に「3人の子供を悲しませたくない」という葛藤 ダイアナ妃早逝の過去も影響か
女性セブン
水原氏の騒動発覚直前のタイミングの大谷と結婚相手・真美子さんの姿をキャッチ
【発覚直前の姿】結婚相手・真美子さんは大谷翔平のもとに駆け寄って…水原一平氏解雇騒動前、大谷夫妻の神対応
NEWSポストセブン
大谷翔平に責任論も噴出(写真/USA TODAY Sports/Aflo)
《会見後も止まらぬ米国内の“大谷責任論”》開幕当日に“急襲”したFBIの狙い、次々と記録を塗り替えるアジア人へのやっかみも
女性セブン
創作キャラのアユミを演じたのは、吉柳咲良(右。画像は公式インスタグラムより)
『ブギウギ』最後まで考察合戦 キーマンの“アユミ”のモデルは「美空ひばり」か「江利チエミ」か、複数の人物像がミックスされた理由
女性セブン
違法賭博に関与したと報じられた水原一平氏
《大谷翔平が声明》水原一平氏「ギリギリの生活」で模索していた“ドッグフードビジネス” 現在は紹介文を変更
NEWSポストセブン