ジョン・F・ケネディの場合、就任式の前から、全米で期待の声が高まっていた。彼はアメリカのみならず世界全体を見つめ、世界の民主主義と自由を引っ張っていくのだという気概があったからだ。

 1961年1月20日に行われた、ケネディの就任式スピーチの一節を紹介する。彼は、就任式を「党の勝利」ではなく「自由の祭典」と位置づけた上でこう高らかに宣言した。

〈われわれは、自由の生存と成功のためにはいかなる代価をも支払い、いかなる苦難にも立ち向かい、いかなる友をも支援し、いかなる敵にも反対する〉

 そして、クライマックスへ向けてこう説いた。

〈今また、トランペットがわれわれを呼んでいる。武器は必要としてもそれは武器をとれとの呼びかけではなく、抗争の真っ只中にあろうとも戦闘への呼びかけでもない。それは行く年、来る年”望みの中に喜び、艱難の中に耐える”長い夜明け前の戦い独裁、病、貧困、そして戦争など全人類共通の敵に対する戦いのための重荷を背負えとの呼びかけである。

 これらの敵に対して、北も南も東も西も含めた世界的な同盟を結ぼうではないか。(中略)この歴史的努力に参加していただけるだろうか?〉

 ここで観衆からは、割れんばかりの拍手と歓声が沸きあがった。

 15分ほどの短いスピーチの中には、ケネディの理想とする社会や夢、政治哲学や歴史観が感じられた。私は留学先のオルブライト大学で学生仲間とテレビで就任式の様子を見ていたが、あまりの言葉の美しさ、格調の高さに目頭が熱くなったことを今も思い出す。

 ケネディの言葉と比べると、トランプの幼稚さがよくわかるだろう。

※SAPIO2017年3月号

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