イギリスがEUから離脱し、ヨーロッパのいくつかの国では、自分たちの国さえよければと主張する保守政党が票を集めだした。アメリカではアメリカ第一主義を唱えるトランプ氏が大統領になった。ロシアや中国はもともと自分たちの国のことしか考えていない。

 だから、日本も自分のことだけ考えていればいい、とは言えないだろう。貿易立国の日本が内向きになったら、世界のなかで生きていけない。国民一人ひとりに内向き志向がまん延すれば、経済はますます悪化していく。経済が悪くなると内向きになる。するとますます経済が悪くなる。脱出口を探して戦争を起こす。結構危ない状況だと思う。今、内向きになっていいことなんかないのだ。

 厚生労働省の研究で、楽しむのが下手な男性は心筋梗塞の発症率が1.9倍高いというデータがでている。人生を楽しんだほうが、健康にもなるのだ。今は、内に閉じこもる「林住の時代」ではなく、自由に、外に向かってはじける「遊行の時代」なのだと思う。これが『遊行を生きる』を書いた理由だ。

 では、「遊行を生きる」とは何か。ある程度の年齢に達しないと、遊行を生きられないのだろうか。ぼくは、生まれてから死ぬまで、遊行は無縁ではないと思っている。

「学生期」でも、「家住期」でも、「林住期」においても、「遊行」を意識することで、もっと自由に、大胆に生きることができるのではないか。若くして起業してビジネスに成功している人たちは、皆「遊行」のテイストを持っているように思う。

 この連載を始めて7年を超えた。副題を「食う・見る・浸る──いのちの洗濯」としたのは、変わったものを食べてみたい、好奇心を満たす人や本や風景や経験に出会いたい、音楽や映画の感動や温泉にも浸りたい、と思ったからである。

 年齢を重ねていくことは、無欲になり、干からびていくことではない。ポストの死ぬまで……のシリーズは、いい線いっている。同じ欲でも、しがらみや執着は要らないが、人生を豊かに楽しくしてくれる欲はずっと持ち続けたい。

 本題は「ジタバタしない」だが、自由な生き方を求めるためなら、最後まで大いにジタバタしたいと考えている。あがき続けた結果、野垂れ死にするなら、それも本望。

 人生は、おもしろく生きた者の勝ち。決して手遅れではない。ぼくたちは遊ぶために生まれてきたのだ。

●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に、『死を受け止める練習』『遊行を生きる』。

※週刊ポスト2017年2月17日号

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