執筆も音楽を聴きながら? と問うと、「書くときは好きな音楽でも、うるさい! と感じて。すぐに消します(笑い)」。
日常的にはジャンルを超えてなんでも聴くそうだ。作品の中にも八代亜紀や前川清の名前がちらと出てくるが、「疲れたときに聴く八代亜紀のブルースもいいし、最近聴いていいのは、前川清の『そして神戸』(笑い)。うまいですよね。こぶしの回し方も、声もいいし」。
選考を重ねるごとに成長していく彼ら。いったい誰が第1位に輝くのか、最後までワクワク感が高まり、興味が尽きない。
「私も、誰が優勝すると決めていなかったものだから、誰が優勝するんだろうと最後の最後まで考えながら、迷いながら書き進めていたんです。そういう意味では臨場感がありましたね(笑い)」
激しい戦いを経た挑戦者(登場人物)たちなのに、お互いがそのライバルをリスペクトし、それぞれが《音楽っていいな》という思いを新たにする。
例えば、今は平凡な音大生である亜夜だが、天才ピアニストとして13才でデビュー。しかし、ある日、コンサートをドタキャンして、消息を断っていた。そんな彼女がどんなふうに復活を遂げることができたのか。大きな驚きが待ち受けている。
ところで、舞台のモデルとなった浜松国際ピアノコンクールの審査委員長を長年にわたって務めた、日本を代表するピアニスト中村紘子さんが昨夏、亡くなった。
「中村さんは別格のスターでした。私がこの小説を書いていることはご存じでした。読んでいただきたかったです」
声が沈んだが、ピアノって何ですか、とあらためて問うと、明るさを取り戻してこう話した。
「オーケストラを兼ねることもできるし、孤独なものでもあるし、いろんなこと、ものを表現できる素晴らしい楽器です」
──よく弾くんですか。
「今は全然。家にピアノがないんで。でも、今度こそ買います!」
※女性セブン2017年2月23日号