ケネディには世界を引っ張っていく気概があった AP/AFLO
そんな中、キング牧師が座り込んで解放運動をしていたことを機に逮捕される。選挙中でニクソンと戦っていたケネディは、二者択一を迫られた。
良心に従い、キング牧師の逮捕を不当だとして介入し白人票を失うリスクを負うか。それとも何もせずに票を固めるか。
ニクソンはこの問題についてノー・コメントを貫いたが、ケネディは迷わなかった。まず遊説先のシカゴからキング牧師の妻コレッタ・キングに電話し、できる限りのことをすると約束した。そして翌日、弟のロバート(ボビー)・ケネディに、キング牧師を有罪にした判事に電話させ、すぐ釈放するよう説得したのだ。キング牧師は、即日釈放された。このことは、黒人たちの心を大いに動かした。
ボビーもまた、黒人差別をなくそうと強く主張した。1968年の大統領予備選の間、ボビーが各地を回ると、多くの黒人支持者が彼と握手しようと殺到した。ケネディ兄弟は、白人はもちろん、黒人たちから愛され、慕われていた。
ケネディ兄弟は、アメリカを1つにしようとしたのだ。彼らは、それまでアメリカを暗く覆っていた「差別」という厚い雲を、吹き飛ばしつつあった。
しかし、1963年と1968年の2つの悲劇的な暗殺事件が、彼らの理想を道半ばで終わらせてしまったのだ。
翻ってトランプは、差別をなくすどころか再生産し、アメリカ社会の亀裂をどんどん広げようとしている。2017年は「この年から、憎しみと差別の歴史が再び始まった」と記憶されることになるかもしれない。
※SAPIO2017年3月号