国内

後陽成天皇、朝鮮出兵を巡る豊臣秀吉との確執は死後も続いた

知られざる暗闘があった(写真:アフロ)

 日本の歴史上、天皇は「神」であると同時に、「司祭者」として神の意思を聞き、穢れを祓い、平安を祈り争いを鎮める地位にある。それゆえ、天皇が時の権力者と対立することは本来あってはならない。だが、歴史上いくつかのポイントで天皇は為政者と衝突した。朝鮮出兵を巡る確執から対峙し続けた後陽成天皇と豊臣秀吉について、歴史家の八柏龍紀氏が解説する。

 * * *
「天下布武」を掲げ、大名・寺社勢力を武力で従えた信長の死後、権力を握った豊臣秀吉は信長とは打って変わり、自らの権力を正当化する論理を朝廷に求めた。

 秀吉は朝廷に取り入って関白の地位を手にすると、京都に“黄金の城”と称される豪華絢爛な平城・聚楽第を築き、後陽成天皇の盛大な行幸を演出した。

 だが秀吉が朝鮮出兵の意思を明かし、「後陽成天皇を北京に遷御して明国の皇帝とし、日本の天皇には政仁親王か智仁親王を置く」と公言すると、秀吉の専横に危機感を覚えた後陽成天皇は再三、秀吉に異を唱えた。

 これを不快に思った秀吉は、秀頼の誕生で邪魔者になった養嗣子・秀次を粛清する機を利用し、朝廷に脅しをかけた。秀吉は秀次に謀反の疑いをかけ切腹させた上、秀次が後陽成天皇の側近の公家などに進献した金銀や各種道具を没収すると通告。一方で、その後、参内した際には金銀財宝を惜しげもなく贈答し、圧倒的な財力を見せつけ朝廷への圧力を強めたのだ。

 朝鮮出兵を食い止められなかった後陽成天皇だが、秀吉の死後、その影響力の継続を嫌い、秀吉に近い良仁親王ではなく、智仁親王への譲位を図った(*)。

 天皇は決して時の権力者に迎合するばかりではない。

(*第2皇子、智仁親王への譲位は家康に反対され、最終的に第3皇子、政仁親王に譲位した)

■取材・構成/池田道大

●やがしわ・たつのり/秋田県生まれ。慶應義塾大学法学部・文学部卒業。高校教師、大手予備校講師などを経て、現在、淑徳大学エクステンションセンター講師、京都商工会議所主催「京都検定講座」講師。日本近現代史、日本文化精神史、社会哲学など幅広いテーマで執筆、論評、講演を行う。『戦後史を歩く』(情況出版刊)、『日本の歴史ニュースが面白いほどわかる本』(中経出版刊)など著書多数。近著に『日本人が知らない「天皇と生前退位」』(双葉社刊)がある。

※SAPIO2017年3月号

関連記事

トピックス

ドジャース入団時、真美子さんのために“結んだ特別な契約”
《スイートルームで愛娘と…》なぜ真美子さんは夫人会メンバーと一緒に観戦しないの? 大谷翔平がドジャース入団時に結んでいた“特別な契約”
NEWSポストセブン
山上徹也被告の公判に妹が出廷
「お兄ちゃんが守ってやる」山上徹也被告が“信頼する妹”に送っていたメールの内容…兄妹間で共有していた“家庭への怒り”【妹は今日出廷】
NEWSポストセブン
靖国神社の春と秋の例大祭、8月15日の終戦の日にはほぼ欠かさず参拝してきた高市早苗・首相(時事通信フォト)
高市早苗・首相「靖国神社電撃参拝プラン」が浮上、“Xデー”は安倍元首相が12年前の在任中に参拝した12月26日か 外交的にも政治日程上も制約が少なくなるタイミング
週刊ポスト
相撲協会の公式カレンダー
《大相撲「番付崩壊時代のカレンダー」はつらいよ》2025年は1月に引退の照ノ富士が4月まで連続登場の“困った事態”に 来年は大の里・豊昇龍の2横綱体制で安泰か 表紙や売り場の置き位置にも変化が
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
《季節感あふれるアレンジ術》雅子さまの“秋の装い”、トレンドと歴史が組み合わさったブラウンコーデがすごい理由「スカーフ1枚で見違えるスタイル」【専門家が解説】
NEWSポストセブン
俳優の仲代達矢さん
【追悼】仲代達矢さんが明かしていた“最大のライバル”の存在 「人の10倍努力」して演劇に人生を捧げた名優の肉声
週刊ポスト
10月16日午前、40代の女性歌手が何者かに襲われた。”黒づくめ”の格好をした犯人は現在も逃走を続けている
《ポスターに謎の“バツ印”》「『キャー』と悲鳴が…」「現場にドバッと血のあと」ライブハウス開店待ちの女性シンガーを “黒づくめの男”が襲撃 状況証拠が示唆する犯行の計画性
NEWSポストセブン
全国でクマによる被害が相次いでいる(右の写真はサンプルです)
「熊に喰い尽くされ、骨がむき出しに」「大声をあげても襲ってくる」ベテラン猟師をも襲うクマの“驚くべき高知能”《昭和・平成“人食い熊”事件から学ぶクマ対策》
NEWSポストセブン
オールスターゲーム前のレッドカーペットに大谷翔平とともに登場。夫・翔平の横で際立つ特注ドレス(2025年7月15日)。写真=AP/アフロ
大谷真美子さん、米国生活2年目で洗練されたファッションセンス 眉毛サロン通いも? 高級ブランドの特注ドレスからファストファッションのジャケットまで着こなし【スタイリストが分析】
週刊ポスト
超音波スカルプケアデバイスの「ソノリプロ」。強気の「90日間返金保証」の秘密とは──
超音波スカルプケアデバイス「ソノリプロ」開発者が明かす強気の「90日間全額返金保証」をつけられる理由とは《頭皮の気になる部分をケア》
NEWSポストセブン
三田寛子(時事通信フォト)
「あの嫁は何なんだ」「坊っちゃんが可哀想」三田寛子が過ごした苦労続きの新婚時代…新妻・能條愛未を“全力サポート”する理由
NEWSポストセブン
初代優勝者がつくったカクテル『鳳鳴(ほうめい)』。SUNTORY WORLD WHISKY「碧Ao」(右)をベースに日本の春を象徴する桜を使用したリキュール「KANADE〈奏〉桜」などが使われている
《“バーテンダーNo.1”が決まる》『サントリー ザ・バーテンダーアワード2025』に込められた未来へ続く「洋酒文化伝承」にかける思い
NEWSポストセブン