◆残った濁りを取らない
白内障とは、目の中で“カメラのレンズ”の役割を果たす「水晶体」が加齢とともに白く濁る病気のこと。正常な水晶体は透明で光をよく通すが、濁ってくると光が通らなくなり、目が見えにくくなる。すると、物が多重に見えたり、かすんで見えるなどの症状が出る。
一度濁った水晶体は元に戻らず、メガネをかけても視力は回復しないため、手術で水晶体を除去し、そこに眼内レンズ(人工の水晶体)を挿入する。眼内レンズには、遠くか、近くかのどちらかでピントを合わせる単焦点レンズと、近くにも遠くにもピントが合う多焦点レンズの2種類がある。
単焦点レンズには健康保険が適用され、手術費用は3割負担で片目5万円程度。多焦点レンズは先進診療となるため、片目につき30万~50万円ほどだ。
眼球に細いメスを入れて眼内レンズを挿入すると聞くと、いかにも難しい手術と思われがちだが、多くの眼科医は、「比較的安心して受けられる手術」と口を揃える。実際、手術は10~20分ほどで終わり、年間140万件行なわれている。
だが、白内障の手術には大きな問題がある。深作氏が指摘したように「医師の腕」によるところが大きいことだ。
「白内障の手術では、水晶体のうち濁った中心部を取りのぞいた後、水晶体の奥側にある後嚢(こうのう)にある濁りも取り除く必要があります。後嚢の濁りまで完全に除去できれば視力は1.0以上まで回復します。できなければ0.5程度までしか戻りません。
それを知らない医師も問題ですが、知っていても後嚢は破れやすいためリスクを避けようとする眼科医も多いのです。後嚢の濁りを取るのが不十分な場合、特に多焦点レンズでは視力が出ません」
技術を磨くため欧米の眼科医は日夜研鑽するが、日本の眼科医は対極にある。
「日本の眼科医は技術不足です。私が手術時に使うのは、パイプオルガンのように両手両足を使う複雑な機械。欧米の眼科医は豚の眼球などを用いて、こうした機械で日頃から切磋琢磨しますが、日本でそんな光景は少ないのです」
日本の眼科医は最新理論についても「勉強不足」だという。
「患者の視力を上げるには水晶体を取り替えるだけではダメな場合がある。水晶体と網膜の間にあるゼリー状の『硝子体』にも濁りがある場合には、それを取り除かなければ視力は上がりません。そこで、白内障の手術に加え、硝子体の濁りを取る別の手術を併用する、というのが欧米では主流の治療法です。
しかし、白内障手術と硝子体手術を同時に行なえば視力が回復するというドイツなどの常識は、日本では認識されていないのです」
※週刊ポスト2017年3月3日号