20世紀を代表するロックスター、デビッド・ボウイが死去して1年あまりが経過したが、その人気はいまだ衰えない。開催中の「デヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』」(~4月9日まで。東京・天王洲の寺田倉庫G1ビルにて)も連日盛況だ。デビッド・ボウイと大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』で共演しているのが、ビートたけし氏だ。たけし氏は著書『テレビじゃ言えない』(小学館新書)の中でこんな思い出を語っている。
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あの映画は1983年公開なんだけど、とにかく今じゃ考えられないことばかりでさ。当時、映画とは縁もゆかりもなかったオイラと坂本龍一と、そしてデビッド・ボウイというド素人の3人がそろって主役級のキャストをやっちまった。相当なカネがかかっていたのに平気でとんでもない暴挙をやってのけた、奇跡みたいな映画だったよ。
まァ、この映画に関しちゃ笑える話がいっぱいあってさ。撮影終了後から「グランプリ最有力」といわれたカンヌで受賞できずにズッコケるまで、オイラはことあるごとに『オールナイトニッポン』なんかで、撮影の裏話をしゃべりまくっていたんだよな。
もうバカバカしい話だらけなんだけど、ネタのほとんどは大島監督の話でさ。あの人は現場でとんでもないカミナリを落とすんだけど、どこか間が抜けていて愛嬌があるんで、最後には笑っちゃう。
有名なのが「トカゲ事件」だよな。映画の冒頭に出てくるトカゲが思うような動きをしないんで大島監督がイライラしちゃって、そのトカゲに向かって「おい、お前はどこの事務所だ!」って本気で怒鳴ったという(笑)。このネタなんて、何回しゃべったかわかりゃしねぇぞ。
あとは「よ〜いスタート事件」だよ。キャスター付きの椅子に座ってた大島さんが、メガホンで「よ〜いスタート!」って叫んだら、自分の声がデカ過ぎてそのまま後ろにドーンと下がっていったというね。「お前はジェット機か!」ってオチなんだよな。
まァ、オイラはそんなくだらない話をラロトンガ島でのロケでも周りに披露していてさ。撮影の合間には、坂本龍一やジョニー大倉相手にバカばっかりやっていたんだよ。だけど、デビッド・ボウイと直接話すってことはそれほど多くなかったな。あの人はやっぱり世界でもトップクラスのスーパースターなんで、周りには外国人のスタッフやらボディガードみたいのが四六時中ついててさ。とても自由に雑談って雰囲気じゃなかったんだよな。
だけど、当のデビッド・ボウイはオイラたちに興味津々でね。オイラが早口でギャンギャンしゃべって笑いをとっているのを覗き込むように見ていたし、ときには言葉がわからないはずなのにゲラゲラ笑ってることもあったね。あの人の音楽もそうだけど、現場で新しいものとか、未知のものを取り入れようとしてたんじゃないかって気がするよ。