それに、誰に対しても壁を作らない人だったね。印象的だったのは、傷痍軍人役のエキストラで島に来ていた外国人の身体障害者たちと、昔からの仲間のように酒盛りをやっていたときの笑顔だよ。もう、偉ぶるところはまったくない。だからこそ時代に左右されないスーパースターだったと思うんだ。
そんなデビッド・ボウイだけど、大島さんもさすがに困ってたのは「ティータイム」だよ。イギリス紳士なんで10時と15時にお茶を飲む休憩をとらなきゃいけないっていうわけ。どんなに撮影がおしていても「ハイ! ティータイム」となっちゃうんで、もう大変でさ。デビッド・ボウイを怒鳴るわけにもいかないんで、代わりに撮影スタッフに監督のカミナリが落ちてしまうという毎日だったんだよな。
デビッド・ボウイと坂本龍一とオイラを組み合わせた大島監督ってのは、考えれば考えるほど「狂気の人」だぞ。オイラも坂本も自分の演技が下手くそなのはわかってるんで、「フィルムを焼こう」なんて話してたぐらい。それでも結果的には、オイラはこれをきっかけに映画の世界に引きずり込まれちまったんだよな。
『戦メリ』のラストシーンのオイラの顔なんて、世間は「感動した」っていうけど、当時のオイラにとっちゃ「オレがこんな顔するのか」って思うほど意外でイヤな表情だった。そういう、若かったオイラや坂本、デビッド・ボウイが気づいていなかった「自分の本質」みたいなものが、あの人には見えていたのかもしれない。
だから奇跡みたいなアクシデントも起こったんだ。セリアズ少佐役のデビッド・ボウイが、ヨノイ大尉役の坂本龍一に抱きつく有名なシーン、知ってるだろ? あの時に画面がカッカッカッて揺れるんだよ。どう見たって狙ってやったとしか思えないんだけど、実はアレ、カメラの不具合でたまたまフィルムが引っかかっただけだった。映像をチェックしてみんな青くなってたんだけど、映画で一番いいシーンだから、そのまま使うことにしたんだ。大失態がバツグンの演出といわれるようになったんだからすごいよな。
大島監督だけじゃなく、ツキを持ってた人間が多かったからかな。まァ、何度も言うようにカンヌは獲れなかったんだけどさ。オイラなんて、受賞作発表前日に「受賞後に取材したんじゃ間に合わないから」ってスポーツ紙に言われるままVサインで写真を撮られて、翌日の見出しは「たけしぬか喜び」にされちまった(笑)。
※ビートたけし/著『テレビじゃ言えない』(小学館新書)より