◆「補償はありません」

 事件で負傷した成沢さんは現地で数日間入院した後、旅行会社の手配で帰国し、成田空港で外務省の責任者と面会した。そのときに改めて湧き上がったのは外務省の安全情報への疑問だった。

 当時、外務省が公表している海外安全情報(渡航情報)では、チュニジアは危険度4段階の一番下のレベルに指定され、多くの旅行会社がツアーの対象にしていた。

〈成田空港で中山泰秀・外務副大臣(当時)と面会し、補償の事やケアの事などを協議しました。その時、副大臣は「成沢さんのご意向には100%に近い形で対応させて頂きます」とおっしゃって下さいました。そこで、「なんで渡航情報でチュニジアの危険度は大丈夫としていたのか」と尋ねると、副大臣は、あそこは日本企業が何社もあって危険レベルを上げてしまうと駐在員等が帰らなくてはならなくなるので、とおっしゃっていました。

 そんな対応で国民の安全、国民をテロから守ると言い切れる安倍首相や政府の認識が私には理解出来ませんでした〉

 補償について「100%対応する」という言葉にも憤りを感じているという。

〈その後、外務省の担当者が二人で自宅に来て開口一番「補償の法律はありません」と言われました。あとは何を言ってもその繰り返しでした。中山副大臣の「100%に近い形で対応します」という言葉に対して「それはないのだ」と訂正するために来たわけです。その後、外務大臣に会わせてほしいと文書を通じて何度か申し込みましたが全て却下されました。総理官邸にも電話で面会を求めましたがやはり駄目でした〉

 政府は昨年11月から「国外犯罪被害弔慰金等支給制度」を新設し、国外でテロなど犯罪行為に巻き込まれて不慮の死を遂げた犠牲者の遺族に200万円の弔慰金(障害は100万円の見舞金)が給付されることになった。昨年7月のダッカ・レストラン襲撃事件の犠牲者には、制度を“前倒し”する形で200万円の政府弔慰金が支払われたが、チュニジア事件の被害者は対象外だった。

 成沢さんは手記の中でこう指摘している。

〈話し相手の居なくなった部屋で一日を過ごす事は押し寄せる孤独感とため息の連続でありこれは正に拷問です。外から帰って玄関の前に立った時、鍵を開ける事すらためらってしまう。玄関を開けても誰もいない絶望感。「遺族という名の鎖」それも鍵のない鎖に繋がれてしまった感じです〉

〈他の海外先進諸国はテロ被害者に対して手厚い法律を作って被害者を救済する制度を設けています。総理は他の先進諸国と足並みを揃えてとたびたび口にしますが足並みを揃えていないのは日本だけです〉

「テロと戦う」と言う安倍首相の覚悟が試されている。

※週刊ポスト2017年3月10日号

トピックス

若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「正しい保守のあり方」「政権の右傾化への憂慮」などについて語った前外相。岩屋毅氏
「高市首相は中国の誤解を解くために説明すべき」「右傾化すれば政権を問わずアラートを出す」前外相・岩屋毅氏がピシャリ《“存立危機事態”発言を中学生記者が直撃》
NEWSポストセブン
3児の母となった加藤あい(43)
3児の母となった加藤あいが語る「母親として強くなってきた」 楽観的に子育てを楽しむ姿勢と「好奇心を大切にしてほしい」の思い
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
神戸ストーカー刺殺“金髪メッシュ男” 谷本将志被告が起訴、「娘がいない日常に慣れることはありません」被害者の両親が明かした“癒えぬ悲しみ”
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
木瀬親方
木瀬親方が弟子の暴力問題の「2階級降格」で理事選への出馬が絶望的に 出羽海一門は候補者調整遅れていたが、元大関・栃東の玉ノ井親方が理事の有力候補に
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
高石あかりを撮り下ろし&インタビュー
『ばけばけ』ヒロイン・高石あかり・撮り下ろし&インタビュー 「2人がどう結ばれ、『うらめしい。けど、すばらしい日々』を歩いていくのか。最後まで見守っていただけたら嬉しいです!」
週刊ポスト
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン