──医師が薬物を投与することで患者を死に至らしめる「積極的安楽死」は、日本では認められていない。一方、「尊厳死」は回復の見込みのない患者が延命治療を拒否して亡くなることを指す。長尾氏は「尊厳死には苦痛が伴う」という筒井氏の言葉に敏感に反応した。
長尾:それが違うんです。
筒井:違うんですか?
長尾:『SAPIO』の論考でも、尊厳死は〈治療を絶つことによる苦痛が伴うから安楽死ではない〉と書かれていますが、それは間違いです。無理に延命治療をやるから苦痛が起きる。延命治療をやめて、緩和ケアに専念すると苦痛がなくなって穏やかに死ねます。これが尊厳死なんです。
筒井:本当?
長尾:本当です。医師の多くは、延命治療を断つと苦痛が増すと信じているけど、実際は延命治療を最後までやるから苦痛が大きくなる。
ここに尊厳死協会の私の会員証がありまして、裏に宣言書が書かれているんですが、自分が意思を示せない状態になった場合、無駄な延命治療はやめてくれ、モルヒネを打つなど十分な緩和ケアをしてくれという意思を示すものです。
筒井:それはいいですね。
長尾:先生は『SAPIO』で〈苦痛を和らげる薬を貰いながら死ぬ方がずっとまし〉と書かれています。それこそ我が国では安楽死ではなく、尊厳死なんです。
筒井:日本では尊厳死は許されているんですか?
長尾:法制化されていないのでグレーゾーンといえます。ただ現実には、在宅医療だと尊厳死は可能です。私は在宅で1000人の尊厳死を看取ってきて、逮捕されたことはありません。
だけど、病院の先生はやりたがらない。病院には人の目がたくさんあって、尊厳死を行なった場合に、その医者に恨みを持つ看護師などが警察に密告したら、逮捕される可能性がある。
筒井:在宅医療でも、家族がチクるってことはないんですか。
長尾:家では医者と看護師と患者、家族の距離がものすごく近いんですよ。在宅医療の中で一体感が生まれるので、そういうリスクは少ないんです。だから、末期がんの人を100人受け持ったら、95%は最期まで在宅で看取ることができる。