筒井:在宅で死ぬのと、病院で死ぬのとでは、費用はどのぐらい違いますか。
長尾:一般に在宅のほうが安いです。高額になった場合、在宅でも病院でも、高額医療の自己負担額は上限が決まっているので、同じになります。しかし、尊厳死(平穏死)がどういうものか、世間ではまだまだ知られていない。リビングウィル(*注)も同様です。
【*注:終末期医療に関する意思を、生前にあらかじめ記しておく文書】
筒井:安楽死の議論にも誤解が多い。『文藝春秋』(2017年3月号)に「安楽死は是か非か」という記事が載っていますが、アンケートに答えている著名人の大半が、安楽死について勘違いしているように見えます。
この記事で社会学者の上野千鶴子さんは、〈生まれる時も生まれ方も選べないのに、死に時と死に方を選ぶのは人間の傲慢〉といっていますが、痛いのや苦しいのは誰でも嫌なもの。子供でも「死ぬときは、楽に死にたい」と思うでしょう。それを傲慢だというほうが傲慢です。
長尾:上野さんは、どうやら尊厳死について誤解されているようです。著書『おひとりさまの最期』では、「在宅ひとり死」と名付け、24時間対応の訪問医療などを用いた在宅医療を提言している。それはつまり、「尊厳死」そのものなのですが、一方の『文藝春秋』のアンケートでは尊厳死にも安楽死にも反対と答えています。どうも主張が一貫していないように思います。
筒井:他にも、アンケートでは「認知症になったら安楽死したい」という人がいるけど、現実的にできるわけがないじゃないですか。認知症になってから自分で意思を伝えられるはずがないし、家族が許すわけがない。
長尾:だからこそのリビングウィルなんですけどね。
筒井:彼らにはこの記事を読んで、もう少し深く考えてほしいね。
※週刊ポスト2017年3月24・31日号