一方、若い女性は通りでぶつかると昔は頭を下げたものだが、最近は決まって「アアッ」という声を発する。これはつねられたりして痛い時などの感嘆詞だが、今や老紳士とぶつかっても相手に対する配慮より自分が優先で、「アアッ」といって相手を睨む。「男は何するものぞ」の民主化(男女平等)の結果だ。韓国女性は間違いなくさらに美しくはなったが“ジコチュウ”にも磨きがかかっている。
さらに最近、韓国の若者はまるで発情状態だ。昼間から地下鉄や街頭で抱き合い、キスまでしている。横断歩道の信号待ちや、筆者が住んでいるワンルーム・マンションのエレベーター前でも、男女が待ち切れず(?)にキスしている。日本に比べるととくに、儒教の影響で性道徳に厳しい韓国で、カップルが人前でキスなどかつては考えられないことだった。
それに韓国はスマホ天国だから、地下鉄やバスでは乗客の9割以上が俯いてスマホをいじっている。当然、他人は目に入らない。それをいいことに(?)韓国社会の“美景”だった年寄りに席を譲る若者も激減した。
儒教とは、人間を動物とは異なる秩序ある存在として訓育するもので、それによって国家、社会も安定するという教えだった。即ち、法は動物にはない人間だけのものだが、民主化によって儒教の教えも崩壊したのだ。
筆者はかねてから民主化以降の韓国の変化を“NGO国家”として皮肉ってきたが、いささか極端にいえば韓国は今やどこか無政府的(つまりNGO!)でさえある。NGO大好きの左翼・革新系の野党勢力が次の政権を握ればこれはもっと深化するのかしら?
●くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2017年4月号