「落語って、基本的におじいさんが喋るものだと思うんです。年を取ってるから説得力が出る噺がいっぱいある。もちろん、若い頃からの稽古の積み重ねが大前提ですが。いまの僕の年じゃ、どんなに上手くやっても説得力がないよな、という噺もありますね。

 たとえば、大店の旦那が番頭さんを諭す『百年目』みたいな噺とか。ご隠居さん同士の会話なんかも、まだ難しいところがある。だから、これから年を取るのが楽しみという面もあるんです」

 3月末、一之輔は、写真家のキッチンミノルと『春風亭一之輔の、いちのいちのいち』という本を出した。昨年1年間、毎月初日にキッチンが一之輔に密着した写真集だ。一之輔の日常に寄りそったキッチンは、こう振り返る。

「撮影を始めた頃は、日常に山がなさすぎてどうしようかと思った。たとえば漫才師ならソロライブが山だったりすると思いますが、一之輔さんは毎日同じように落語をやっていて、特別な日というのがなかったんです。でも正確に言えば、毎日が特別感のある日なんです。毎回毎回が山で、それが続くのでそう感じたわけです」

 一之輔は、平均すれば1日2回落語を口演し、都内にいれば寄席をはしごする。歩きながら噺をさらい、途中で喫茶店に入って原稿を書き、次に控える高座の「まくら」を考える。何かアイデアが浮かべばガラケーに打ち込む。そうした1日を1年間ひたすら繰り返しているのが一之輔なのだ。

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