「絵本との出会いによって子供の心の世界は広がり、気づきや共感性、自己肯定感、協調性などが育まれていくのです。いじめ防止対策にも有益な要素がたくさん備わっていると思います」
本に夢中になるのは高齢者だって同じだ。宮崎県宮崎市の飛江田デイサービスセンターには、本棚が置かれているスペースがあり、利用者たちがめいめいそこから本を借りて読む。天気のいい日にはテラスでひなたぼっこしながら読書をする姿が日常の光景になっている。
「佐藤愛子さんの『九十歳。何がめでたい』が大人気で、6冊置いてあるんですが、すぐにはけてしまうほど。それまでは本があってもあまり読まれていなかったのですが、あの本を知人から寄付してもらい、利用者のかたにお声がけしたら、“これよ、これ。私たちが言いたかったのは”“共感できるわ”と言いながら、みなさん何度も読まれていて。うちは介護度の軽いかたから重いかたまで利用されていますが、競うように本を読まれることに正直、驚きました。93才の佐藤さんが書かれたことにも、同じ90代のかたは“私も頑張らなきゃ”と励まされているようです」(同施設の小谷由紀江さん)
『九十歳。何がめでたい』が本と“再会”するきっかけとなり、他の本も読まれるようになっているという。それが思わぬ効果をもたらしていると小谷さんが語る。
「病は気からといいますが、意欲がなくなるといろんな病気が出たり、筋力も弱くなったりします。でも、読書をすることは日常生活の意欲にもつながっていく。本を読むことの素晴らしさや力を改めて感じて、読書コーナーを工夫しているところです」
家に『九十歳。何がめでたい』を持ち帰った認知症の利用者が、夢中になってページをめくる姿に「以前のお母さんに戻ったみたい」と喜ぶ家族も多いという。
※女性セブン2017年4月27日号