そして、昨今問題なのが、あくまでもイメージで発注をためらう企画者がいる点である。先だって雑誌編集者から新連載で相談を受けた。SNS上での、とある芸人の評判を知りたかったのだ。彼はこう言った。
「芸人のXが執筆者候補だけど、Xってネットで身内の悪口書くよね。オレらもいつ書かれるか分からないよね……。それこそ、修正依頼をするだけで『あのクソ編集者にバカ修正指示をされた。死ね』とか平気で書く気がする」
確かにXはそう書きかねないと思われがちではあるが、実際にそんなことをXはしたことはない。噂では、身内や仕事仲間のことは守る人物だとも聞く。あくまでも一般人を相手にネット上でケンカをしたり、挑発することが時々あるだけで、勝手に「身内の悪口を書かれる」と決めつけて発注をためらうのも勿体ない。
私が「いや、Xはそんなことしないと思いますが」と言うも「仮にそうであってもやりそうな雰囲気じゃん」と言われ、Xは候補から外れてしまう。ネットだけで強い「ネット弁慶」という言葉はあるものの、関係者もあなたの発言を見る時代。常に丁寧であるに越したことはない。面白発言より無難な発言がネットでは吉である。
●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など
※週刊ポスト2017年4月28日号