◆母性の象徴が代替し得るという希望
本書のタイトルにある〈耳たぶ〉という単語は、〈耳たぶの感触はおっぱいの先の固さと同じなんだって〉という、ある熟練保育士の台詞に由来。
「私自身が以前、知人から聞いて驚いた話だったのですが、おっぱいという母性の象徴としてとらえられがちなものが、耳たぶという誰もが持っている、それこそたとえば男性でも持っているものと、少なくとも感触だけは代替し得るということに、希望のようなものを感じたんです」
物語は後半、繭子の子に〈璃空〉と名付けた郁絵の章に進む。郁絵と元恋人の仲を疑う夫が璃空のDNA鑑定を依頼したことで取り違えが判明し、生活が一変するのだ。血か、過ごした時間かで郁絵の心は揺れた。
「結末を決めず、一緒に郁絵と悩みながら答えを探していきました。旭の母親は〈孫が増えたような気もしているの〉と言います。それは素敵な考え方だし、そう考えてみんなで育てるというのは一つの理想ではあると思います。でも、この物語の場合、事件を引き起こしたのが繭子だからそうはいかないんです」