そして、その事実を知った郁絵が、事件そのものについてだけではなく、こうなることを知っていた繭子をずるいと思う場面がいい。人はそれが限られた時間だと知ればこそ、記憶を鮮明に刻みつけられるからだ。郁絵は繭子に〈あなたなんて、母親じゃない〉という言葉を突きつける。
「ですが、そのまま終わるわけではないんです。彼女たちは何を得て、何を失うのか、その先に彼女たちが目にすることになる景色はどんなものか―ぜひ本書で確かめていただければ幸いです」
【プロフィール】
●あしざわ・よう/1984年東京生まれ。千葉大学文学部卒。出版社勤務を経て2012年に野性時代フロンティア文学賞受賞作『罪の余白』でデビュー、同作は2015年に映画化された。「受賞の2週後に妊娠が発覚して。今回の話には子供を保育園に預けて小説を書いている自身の葛藤も反映されています」。2015年「許されようとは思いません」で日本推理作家協会賞短編部門候補、同短編集で吉川英治文学新人賞候補。他に『今だけのあの子』等。156cm、A型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2017年5月5・12日号