日本のトラックは自分の都合で第2走行車線や追い越し車線に平気で飛び出してくるのだが、これは何も、好きでやっているわけではない。
運送会社やクライアントから厳しい表定速度(平均車速)を押し付けられているケースでは、少しでも先を急がないとノルマが達成できないため、速度差5kmくらいでも追い越しをかけることを余儀なくされる。また、短い休憩時間を増やすという観点でも、急げるときに急いでおかないと、という気分になるのは致し方のないところでもある。
こういう状況を改善するには、運送会社やクライアントの意識が変わらなければダメだ。が、安倍晋三首相肝煎りの“働き方改革”でも、運輸分野は残業規制の適用から除外された。目標は新規制スタートの5年も後に年960時間以内を実現する(他業界は720時間)とされている。
年間960時間残業というのは、実質的には1日12時間労働のようなもの。その目標すら5年後でなければ無理というのは、いかに日本がトラック輸送に無茶苦茶なロードをかけ、また運送会社がそれを易々と聞き入れてきたかということの表れだ。
そんな働かせ方をドライバーに強いてようやく物流が回っているという現状を考えると、トラックドライバーに高速道路をお行儀よく走れというほうが無理というもの。社会を回す物流の産業構造が根底から改革されないかぎり、日本の高速道路における高速車と低速車の競合はなくならないだろう。
単に規制を緩和すれば走りやすくなるという単純な問題ではない高速道路の制限速度引き上げ。これを機に、交通に関するコモンセンスの再教育から物流システムの改革まで、幅広く議論をしていくべきだろう。
道路交通法も、進路妨害が安全を脅かすものとして捉え、スムーズな流れを保つという目的意識を持って変えていかなければいけない。それがなければ、規制緩和も高速道路で日々展開されている、殺伐とした交通戦争をひどくさせるばかりで終わるだろう。
文■井元康一郎(自動車ジャーナリスト)