韓国政府当局者は「金正恩は、もどかしい心情だろう」と話す。北朝鮮は「核を中枢とする自衛的国防力を強化していく」と強調しており、「核強国」の地位を完成させるためには、追加の核実験を早期に実施したい。かといって、いま踏み切れば、米国の軍事力行使まで視野に入れた強力な報復に遭う上に、安氏への追い風につながる。
大統領選挙の行方は投票日直前まで予断を許さない状況だ。
文氏が次期政権を担うことになれば、制裁と圧力を重視する日本や米国との間で、足並みの乱れが表面化するのは必至。反対に、安氏が当選すれば、正恩氏が「キレ」て、暴走に拍車をかける恐れが増大する。
選挙の結果がどちらに転んでも、朝鮮半島情勢が混迷の度合いを深めることだけは間違いない。
●しろうち・やすのぶ/北朝鮮事情に精通するジャーナリスト。主な著書に『猛牛(ファンソ)と呼ばれた男』『昭和二十五年 最後の戦死者』『朝鮮半島で迎えた敗戦』など。
※SAPIO2017年6月号