◆“死んだ社長”が株主総会を招集
21世紀の幕開け数年は、IT、通信、ゲームなどを手掛ける起業家が、新興市場での上場を目指してしのぎを削っていたが、彼らは経験が乏しく資金力もない。協議会はそんな起業家たちが情報交換する異業種交流会であり、その最年長世代である安田、澤田両氏は“兄貴分”として若い起業家をサポートした。
彼らが次々と成功していく中、VCの投資業務も順調で、総資産30億円、経常利益6億円の超優良投資ファンドに成長する(数字は2006年3月期)。上場準備にも取りかかっていた。
しかし、2006年1月のライブドア事件(※)に端を発するライブドアショックによって風向きは一気に変わる。事件後にベンチャー企業への批判が強まるなど、経営に暗雲が漂う中でVCは上場を断念し、協議会は2008年3月に解散した。
【※IT企業ライブドアが2004年9月期の決算報告として提出した有価証券報告書に虚偽の内容(粉飾決算)を掲載したとして、証券取引法違反などの罪で東京地検特捜部に起訴された事件。堀江貴文氏(当時は社長)は懲役2年6月の実刑判決を受けた】
行き場を失ったVCの引き取り先として手を挙げたのが澤田氏(澤田ホールディングス)だった。全株式の38%を引き受け、VCを持分法適用関連会社としたのである。そして社名をHSAに変更した。
構図としては潰れかけたVCを、澤田氏が“救済”した形である。だが、安田氏はこう言うのだ。
「澤田さんは古くからの仲間として信頼していたし、VCの引受先となってくれたことに感謝もしていた。ところが彼は経営を部下任せにして、赤字を垂れ流しても放置し続けた。結局、ピーク時に30億円あった資産は、解散時に4億円弱まで減ってしまった。澤田さんが“並の経営者”なら文句は言いません。彼ほどの経営者が何ら再建の手立てを打とうとせず、仕舞いには紙切れ1枚を送りつけるだけで清算するやり方に納得がいかないのです」
特に安田氏が不満を抱いたのが清算の手順だという。安田氏らに送付されたHSAの解散を諮る株主総会の招集通知の日付は3月21日で、そこにはHSA社長・A氏の名前がある。ところが、その5日前の16日にA氏は急死していた。
「すでに亡くなっている人物の名前で招集するなんて解せない話ですし、解散の責任を彼に押しつけているようにも感じてしまう。我々(協議会メンバー)の思い入れのあった会社をこんな形で幕引きすることを、澤田さんはどう考えているのでしょうか」(安田氏)