この写真集では全然演技をしていません。写っているのは私そのもの。稲越先生は「直子さんそのものを出せばよい」という姿勢で、細かい指示は出されなかったです。巨匠というのは素材を生かして、いじくりまわさない。職人と職人がぶつかりあうような撮影でした。
裸の全身写真が妊娠7か月の頃で、お腹にいたのは第二子の男の子です。今ではいい大人です。この写真集をずっと自宅の本棚に置いていましたが、本人と話したことはないですね。今、10代の孫に見られたら困っちゃうけど(笑い)。
私はもともと裸って清潔なものだと捉えています。あれだけの写真家に選ばれて撮られる人は少ない。この撮影は女優冥利、女冥利に尽きる仕事でした。今は裸が氾濫して価値が薄れているような気がしますね。だから「袋とじ」はいいシステム、日本の文化ですね。「袋とじ」という言葉がまたいい。ずっと残してください(笑い)。
●大谷直子(おおたに・なおこ)/1950年4月3日生まれ。東京都出身。高校在学中の1968年に『肉弾』(岡本喜八監督)のオーディションに合格し、映画デビュー。翌1969年にNHK連続テレビ小説『信子とおばあちゃん』のヒロインに抜擢され、高視聴率を叩き出して一躍人気を博す。1980年、鈴木清順監督の映画『ツィゴイネルワイゼン』で一人二役を演じ、日本アカデミー賞優秀主演女優賞とキネマ旬報主演女優賞を受賞。
翌1981年に写真集『直子 受胎告知』(集英社刊)を発表。1983年には芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。2007年に悪性リンパ腫を発病して4年間休業した後、2012年に園子温監督の映画『希望の国』で復帰。2016年に左大腿骨頚部骨折置換手術を受けるも回復し、テレビドラマなどに出演する。
※週刊ポスト2017年6月16日号