相手を思えばこそ、〈彼を生み出した男のもとに残して帰るのが最善なのではないか〉とベンは考えもする。旅の終わりは、タングに〈別れを告げる日〉になるかもしれないのだ。言葉を覚え、経験を積むタング。成長するのは34歳のベンも同じで、旅を通して大きく変わる。
「私自身、小さいころから作家になりたいと思っていましたが、長く書かない時期があって、夫に背中を押されて再び小説を書き始めたのは子どもを妊娠してから。何かを始めるのに『遅すぎる』ということはないと思います」
●デボラ・インストール(Deborah Install)/1979年生まれ。イギリス在住。8歳のときに初めて書いた小説を出版社に送り、断わりとともに「将来に期待します」と返事をもらう。大学卒業後はコピーライターとして働く。メンバー9人のライターズグループに所属して小説執筆を再開、長男を出産後に書いた本作は、2016年、ベルリン国際映画祭の「映画化したい一冊」に選ばれた。本年5月、NHKのラジオドラマになった。続篇『ロボット・イン・ザ・ハウス』も刊行予定。172cm、A型。
■構成/佐久間文子 ■撮影/五十嵐美弥
※週刊ポスト2017年6月16日号