「金の取扱店に持ち込めば氏名住所を確認されますが、世の中には金のインゴットに正規の刻印さえ打ってあれば、それ以上の出所は求めない買い手がいくらでもいます。
まあ、こういう人はほとんどが相続税対策でしょう。金なら値上がりも見込め、タンス預金より数段いい。しかも相続のとき、税務署の目から隠し通せる可能性もある。こういう人間はいつ、誰からその金を買ったのかという書き付けなど、頭から必要としていない。今、家庭用金庫がものすごく売れていますが、それと金需要は連動してるんです」
金密輸業者はある面、世の需要に応えている。だからか、扱っているのは金のインゴットばかりではない。全世界で値段が決まっているメイプルリーフやカンガルーなどの金貨も手掛けるし、プラチナや銀も扱う。つまり単一の金市場に、オモテも裏も業者は何食わぬ顔をして住み分けている。
●みぞぐち・あつし/1942年東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。『食肉の帝王』(講談社刊)で講談社ノンフィクション賞を受賞。『闇経済の怪物たち』(光文社新書)、『薬物とセックス』(新潮新書)など著書多数。
※SAPIO2017年7月号