国内

精神疾患に家族の一体感はむしろマイナスになることも

和歌山県精神保健福祉家族会連合会、通称「和福連」代表の大畠信雄さん

 生涯罹患率は3人に1人ともいわれている。2014年の総患者数は約392万人(出典:厚生労働省「患者調査」より)。精神疾患患者数が増加した日本(1999年は204万1000人・出典同)にあって、苦しんでいるのは患者当人だけではない。暴言を吐かれ、殴られることは日常。精神疾患患者の家族は、日々、心身がギリギリの状態で生きている。

 和歌山県精神保健福祉家族会連合会、通称「和福連」代表の大畠信雄さん(74才)は2008年、和歌山県内で当事者家族の実態調査を行っている。66の家族に対して聞き取りを行ったところ、共通の思いが浮かんできた。

「誰もが一度は無理心中を考えるんです。ただ、そこに続くのは、“もし自分だけが死んでしまったら周りに迷惑がかかる”という言葉。自分の子供は自分で面倒を見なくてはという思いが強く、高齢になるほどに自分を追い詰めていたのです」(大畠さん)

 家族で抱え込まず、社会全体で患者を救う――。そんな体制を整えるべく、大畠さんは2014年、「家族依存から社会的支援に向けて進める会」を新たに設立した。だが設立間もなく、地元で無念極まる出来事が続いた。

 2015年2月、県内で精神疾患を患う40代の娘を80代の父親が殺害する事件が起きた。大畠さんと父親は面識があり「一度、娘に会ってほしい」と言われていたが、娘が拒否したことで面会できなかった。

「凄まじい家庭内暴力で、父親は避難のために車中泊を繰り返す日々だった。母親も髪の毛が抜けるほどの暴力を日常的に受けていた。最後は電気コードで首を絞めて…。痛ましい事件でした」(大畠さん)

 昨年4月にも県内で、30代の娘を60代の父親が殺害する事件が発生。この時は事件10日前、病院を通じて家族会に連絡があった。

「“相談したいというかたがいる”という話だったのでぼくの電話番号を伝えてもらったのですが、連絡は来なかった。その父親による犯行だとわかったのは、事件の後です。奧さんからもその後、電話がありました。“連絡をせずに、すみませんでした”と。

 事件前に会うことができたら違ったかもしれない…と、後悔が募りました。繰り返しになりますが、家族で抱えたら絶対にダメなんです。必ず追い詰められる。精神疾患患者の問題を社会で共有し、みんなで受け入れて、みんなで考えていかなければならない。

 今はこの状況を官民一体で変えるべく、懇親会や会合を積極的にやっています。事件を起こした当事者を講演会に呼んで、経験談を話していただく講演会も全国でやっています」(大畠さん)

関連キーワード

関連記事

トピックス

実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
12月30日『レコード大賞』が放送される(インスタグラムより)
《度重なる限界説》レコード大賞、「大みそか→30日」への放送日移動から20年間踏み留まっている本質的な理由 
NEWSポストセブン
若手俳優として活躍していた清水尋也(時事通信フォト)
「もしあのまま制作していたら…」俳優・清水尋也が出演していた「Honda高級車CM」が逮捕前にお蔵入り…企業が明かした“制作中止の理由”《大麻所持で執行猶予付き有罪判決》
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
ハリウッド進出を果たした水野美紀(時事通信フォト)
《バッキバキに仕上がった肉体》女優・水野美紀(51)が血生臭く殴り合う「母親ファイター」熱演し悲願のハリウッドデビュー、娘を同伴し現場で見せた“母の顔” 
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン
和歌山県警(左、時事通信)幹部がソープランド「エンペラー」(右)を無料タカりか
《和歌山県警元幹部がソープ無料タカり》「身長155、バスト85以下の細身さんは余ってませんか?」摘発ちらつかせ執拗にLINE…摘発された経営者が怒りの告発「『いつでもあげられるからね』と脅された」
NEWSポストセブン
結婚を発表した趣里と母親の伊藤蘭
《趣里と三山凌輝の子供にも言及》「アカチャンホンポに行きました…」伊藤蘭がディナーショーで明かした母娘の現在「私たち夫婦もよりしっかり」
NEWSポストセブン
2021年に裁判資料として公開されたアンドルー王子、ヴァージニア・ジュフリー氏の写真(時事通信フォト)
《恐怖のマッサージルームと隠しカメラ》10代少女らが性的虐待にあった“悪魔の館”、寝室の天井に設置されていた小さなカメラ【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン