もちろん、40代に比べれば、1時間半を超える舞台を一人でやりきるには、それなりに心身への負担が大きくなっているはずだ。体力、記憶力、客の反応を拾って返す力……。
が、その立ち姿、歩き方からは年相応の老いが見てとれない。
「5年前に、長くいた事務所を離れてフリーになって、定期的なライブがなくなって。身体がなまってきたから、2年半ぐらい前からピラティスを始めたんです。
この間、ある番組の衣装合わせがあって、衣装部屋の壁に大きな鏡があった。近づいていくと、変な話ですけど、鏡の中の自分がすごく堂々としていて、がっちりしていて、これが俺か、と思ったんです。
それまでは、猫背で細くてどこかが曲がっている、という自己イメージだったんですけどね。食事も三度三度食べるようになりましたし。ピラティスさまさまです」
還暦を迎えてからというもの、イッセーには大きな転機がいくつも訪れている。事務所から離れたこと、ピラティスを始めたこと、漱石の一人芝居という新しいフィールドを得たこと。そして、遠藤周作原作、マーティン・スコセッシ監督作品『沈黙─サイレンス─』への出演。イッセーは、隠れキリシタンを弾圧する奉行・井上筑後守役で、ハリウッドでも高く評価された。