「監督は、僕の芝居での人物の掴み方、演じ方に非常に興味を持ってくださった。いいものをつくろうという意気込みに満ちた現場で、緻密な仕事に触れられてすごく幸せな時間だった。僕にとって重要な映画でした」
さらには、2人芝居や映画『太陽』(アレクサンドル・ソクーロフ監督)などで共演してきた桃井かおりとの新作映画『ふたりの旅路』もまもなく公開される。
「60歳で人生ひと回り。いろいろあって、そういうのを信じましたね。何かが終わって、何かが始まる。人間うまいことできていて、ひと回りしても死ぬんじゃなくて、もう少し生かしてもらえる。これが生きている醍醐味だなって思いますね。いま、まさにその醍醐味に入っている」
もちろん、「妄ソーセキ」もさらなる進化をしながら続いていく。
「漱石さんのネタをやっていて思います、現代人とは何なのかって。現代ものでもそれなりのネタはできるんです。でもこうやって一人芝居で人間を扱っていると、もう少し深く、本質をとらえたくなってくるんです。人間を突き動かしているものは何か、みたいなことを」
漱石にとどまらず、太宰治、志賀直哉、川端康成、横光利一、ゴーゴリなどの近代文学作品にも挑み、これからさらに究めようとしている。一人芝居は80歳になっても続けられますか、と尋ねてみた。
「できるはずです。80歳になって60代を演じれば、60歳と65歳の違いがくっきり見える。どこをとってもきめ細かに捕まえられるようになっていると思います。ここまで行ったらお終いというのがないんですよ。今夜の舞台は上手くいったと思っても、ホテルに戻ったら、あそこをこうすればよかったとまた出てくる。終わらないんです」