しかしそれでも陳は諦めず、1年以上に及んで周到に準備し、2012年4月のある日、家からの脱出を決行し、隣村まで逃れ、協力者の支援を得て、〈中国全体で唯一の安全な場所〉である北京のアメリカ大使館に保護される。そして、アメリカと中国のタフな交渉の末、家族と共にアメリカに渡る。
いかに経済が発展しようが、中国の政治的暗黒は変わっていないことに慄然とすると同時に、ただの一度も絶望せず、転向せず、未来への希望を失わなかった陳の強靱な精神力に感嘆する。つい忘れてしまうが、そうだ、彼はそもそも盲目というハンデを背負っているのだと思い出し、なおいっそう脱帽する。今の中国というものにかろうじて敬意を抱くとすれば、陳のような存在があってこそだ。
※SAPIO2017年7月号