住民不在の決定の他にも、アジア有数の経済先進都市を目指す土地にもかかわらず、妙に社会主義的な厳しい統制が目に付くのが雄安新区の特徴だ。例えば安新県では2月の習近平の訪問直後から、県内のすべての不動産業者が当局の命令で閉鎖された。
この処置は新区設置が正式発表された4月1日以降は雄県・容城県にも広がり、さらに新区範囲外の覇州市や高陽県まで及んだ。不動産投機の過熱と乱開発を抑制し、計画的な都市づくりを進めるための処置だと説明されている。
だが、オフィスの入り口が×印の紙で封じられ、看板の文字まで徹底的に削り取られた廃店舗がいくつも並ぶ光景は、さながら「手入れ」が入った性風俗店街だ。法的な根拠が曖昧なまま、民間企業の商業活動がここまで制限されている。
「街の不動産業者は、政府の手で『旅行』を名目に街から強制的に隔離され、政治犯罪者のような扱いです。現在、雄安新区の不動産の入手は、よほど太いコネから地下ルートを使うしかない。一般人が自由競争のルールのもとで投資することは不可能でしょう」
覇州市に住む教師の男性はこう証言する。雄安新区の発表直後は、値上がりを見越して不動産取得を狙う国内外の企業や投資家が殺到したが、間もなく実態を知り誰も来なくなった。強制閉鎖された店舗だらけの街は殺伐とし、地域全体が政治迫害を受けたような重苦しい空気が漂う。
「自分たち庶民の生活がすぐ改善するとも思えず、雄安新区の件に関心はない。むしろ今回の決定の結果、店や自宅を失う不安のほうが大きいですよ」
雄県で小さなスーパーを営む主婦は淡々と述べた。現地の住民らの表情から、景気のいい巨大プロジェクトへの期待に沸き立つ様子は感じられない。