「サラリーマン生活の終わりが見えてきた時、リタイアして隠居するにはまだ早いと感じ、やり残したことがないか考えるようになりました。
その時に感じたのは、コンピュータは普及したが、使いこなせる人は限られているということでした。東芝時代は誰もが使いやすいITを提供したいと工夫をしてきたが、それでも何分の1は置いてきぼりになってしまった。そこをすくい上げるビジネスをしようと考えました」
金子氏は、学習型AIを用い、音声認識でコンピュータを使えるアプリを企画・開発し、販売まで手がける。音声認識はスマホなどで使われ始めているが、目指すのは、より人の役に立つコンピュータだという。
「ハードウェアの調達については東芝のパソコン部隊の大半が所属する東芝クライアントソリューションに相談しています。安さを追求すれば別の選択肢もありますが、やはりハード機器は実績と信頼がある東芝に頼みたい。完成した商品は、当社が顧客に販売します」
価格競争力に優れた下請けに製造を発注するつもりはないと言う。そして、秀でた能力を持つ研究者、技術者の手を借りる。このスタイルは「東芝の“勝ちパターン”を再現している」という。
「東芝のパソコン事業では、営業と技術者が頻繁に会議を行なってきた。私たち営業がユーザーの要望やニーズを技術者に伝え、技術者はそれに対してどういう技術が使えるかを説明してくれる。それによって私のような文系の人間もパソコン技術を学び、その知識を基に、改めてマーケットが必要とするものを技術者にフィードバックする。
対等に議論を繰り返すことで、『ダイナブック』をナンバー1パソコンにしていった。当初、デスクトップが当たり前だった中で、ノートパソコンの有効性を市場に訴え、主流に押し上げていったことは、こうした“東芝流”があったからだと思います」