「以前は自分が思ったことをうまく言葉にできなくて、そのモヤモヤを作品にぶつけていた感じもあるんです。でも前作を書き終えたらスッキリしちゃって、むしろ自分と違う仕事や生活をしている人に会うと、物語が浮かぶ。そして書いた後で『そうか、これは若葉が居場所を肯定する話だったんだ』って、気づくんです。
どうも私は昔からそうで、自分が怒っているのか悲しいのか、わかるのは3か月後、みたいな(笑い)。なぜみなさんは自分の気持ちがそんなにすぐわかるのか、逆に不思議なくらいです」
それこそ親に反対されてなお芸の道に進んだ紗良や、女将としての役割を生きる志乃を見るにつけ、若葉は〈覚悟がちゃう〉と痛感し、かといって自分に山吹屋を継ぐ覚悟があるかというと、〈ほんまに分からんのやもん〉と思ってしまうのだ。
「若葉にはイライラしますよねえ。でも本当に覚悟を決めるにはこれくらいの時間や言葉の量は、必要な気もして……」
確かに後継者問題や経営刷新に町全体が直面する中、自分の気持ちに真摯に向き合う若葉は、流れに流されない頑固者とも言える。やがて秋から冬へと季節は巡り、慎太郎との関係や紗良が置かれる状況も少しずつ変化していくが、それでも変わらないのが京都でもあった。紗良が図らずも言う。〈自分が変わっても、変わらんでいてくれるもんがあるって、ええなあ〉と。