紺田屋でも女中頭の〈妙〉に鈍さを詰(なじ)られ、その度に女将の〈志乃〉や板前見習いの〈慎太郎〉に助けられる。しかも山吹屋と紺田屋の仕事を掛け持ちする彼女に、祖母は一々命令などしない。そこは空気を読んで察するのが、京都人の流儀なのだ。
「京都は紹介の文化が根強いです。関係性や立場をわきまえれば、私のような小娘にも凄くよくしてくれるし、もし失礼な言動があれば、自分で気付くよう、やんわり促してくれます。
私の知り合いに老舗割烹に関東から嫁いだ人がいて、いったん中にさえ入れば、人付き合いや掃除の仕方も周囲の人が全部躾けてくれるそうです。ほどよく都会で、でもちょっと掘り下げると途轍もない歴史が出てくる京都は、私にとって住むにも書くにも、いい町です」
◆京都の人は結構“新しもん”好き
デビュー作『砂漠の青がとける夜』では、東京生活に疲れ、京都に移り姉のカフェを手伝う女性の、言葉にする度に取りこぼされる思いを細やかにすくいとり、選考会で絶賛された中村氏。本書でも京都という舞台や、言葉の限界に言葉で向き合う姿勢は共通するものの、前者は内的世界、後者では外的世界に比重を置くなど、印象はあまりに対照的だ。