呉と並び軍港として名高い横須賀では、1930(昭和5)年に開業した湘南電気鉄道(現・京浜急行電鉄)の横須賀軍港駅が1940(昭和15)年、横須賀汐留駅に改称させられた。
軍機保護法は敗戦しポツダム宣言を受託したことで廃止された。今般、わずかに運行されている米軍の燃料輸送や自衛隊輸送といった国家防衛上で重要と思われる列車や鉄道施設を撮影・スケッチしても大問題には発展しない。
ところが、7月11日にテロ等準備罪(通称:共謀罪)が施行されたことで雲行きが怪しくなっている。同法案を審議した国会では、金田勝年法務大臣の答弁が二転三転した。共謀罪の議論は深まらず、何をしたら共謀罪に該当するのかが不明のまま法案は採決されている。
共謀罪の国会審議で注目されたのが、金田法務大臣が「花見の席で地図を広げることや双眼鏡を覗き込むことはテロの準備行為に該当する」と答弁したことだ。金田発言により、花見が罪になる可能性が示唆された。
とはいえ、共謀罪が施行されたからといって捜査機関が即座に花見客を片っ端から逮捕することはあり得ない。しかし、これらの行為が共謀罪に抵触するならば、逮捕されるか否かは捜査機関の胸先三寸によって決められるになる。
そうした疑問を法務省刑事局にぶつけてみると、「個別のケースについてお答えできません」と前置きしながらも「鉄道を撮影することや時刻表を広げているだけでテロ行為ではありませんので、逮捕されることはありません」と断言した。
その一方で、「テロ等準備罪では、基本的に現場の捜査機関が判断します」とも付け加えた。要するに、捜査機関の判断が優先されるということになるので、いくら法務省刑事局が鉄道撮影は共謀罪が適用されないと断言してもあまり意味をなさない。
海外では、いまでも鉄道を軍事機密にしている国はある。また、鉄道撮影が違法ではない国でも、州政府や当局の判断よって鉄道撮影を制限している場合もある。
例えばスペインは鉄道が発達している国のひとつで、AVEと呼ばれるスペイン版新幹線が各地で走っている。AVEは乗車前に手荷物検査を実施している。それほど、テロに警戒を怠らないスペインだが、車両や駅などを撮影しても咎められることはない。
また、マドリードやバルセロナの地下鉄を撮影していても何も言われないが、アンダルシア州の州都・セビーリャでは地下鉄構内での撮影が禁止されており、カメラを構えるだけで警備員に制止される。